独占インタビュー「ラノベの素」 東崎惟子先生『竜殺しのブリュンヒルド』&『竜の姫ブリュンヒルド』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2022年11月10日に電撃文庫より第二部『竜の姫ブリュンヒルド』が発売された東崎惟子先生です。第28回電撃小説大賞《銀賞》受賞作として発売された『竜殺しのブリュンヒルド』は大きな反響を呼びました。最後まで復讐者として駆け抜けたブリュンヒルドの物語について、そして第二部で描かれる過去の物語。物語の原点、そしてブリュンヒルドの名前が持つ運命を描いていく本作について、様々にお聞きしました。

※本インタビューはKADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」に掲載されたインタビューとあわせて読むことをオススメします。

 

 

竜の姫ブリュンヒルド

 

 

【あらすじ】

人々は彼女をこう呼んだ。時に蔑み、時に畏れながら、あれは「竜の姫」と。帝国軍の大砲が竜の胸を貫く、そのおよそ700年前―-邪竜に脅かされる小国は、神竜と契約を結び、その庇護の下に繁栄していた。国で唯一、竜の言葉を解する「竜の巫女」の家に生まれた娘ブリュンヒルドは、母やその母と同じく神竜に仕えた。竜の神殿を掃き清め、その御言葉を聞き、そして感謝の貢物を捧げる――月に、七人。第28回電撃小説大賞《銀賞》受賞の本格ファンタジー、第二部堂々開幕!

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

東崎惟子と申します。第28回電撃小説大賞にて《銀賞》を受賞させていただき、受賞作『竜殺しのブリュンヒルド』で小説家デビューいたしました。昔は書店などでアルバイトをしていたこともあり、本そのものには親しみがあります。ただ、本を読む速度が非常に遅いため、読書自体は得意ではありません。大学時代はゲームを一人で作ったり、卒業してからふと小説を書いてみたりと、創作自体は大好きです。好きが高じてゲーム会社にも拾っていただき、現在も創作を続けながら楽しく過ごしています。

 

 

――読書が得意ではないけれど書くことは得意というのは、少し珍しいかもしれませんね。ライトノベルにもほとんど触れてこられなかったのでしょうか。

 

おっしゃる通り、ライトノベルもほとんど読まずに過ごしてきました。それこそ読んだことのある作品は『とある魔術の禁書目録』くらいだったと思います。そして約2年前だと思いますが、小説の『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』と出会いました。久しぶりに小説を読む機会でもあり、読んで非常に感銘を受けることになったんです。さらに著者である暁佳奈先生が、電撃文庫で『春夏秋冬代行者』という作品を刊行されるというお話を目にして、それであれば電撃大賞に応募してみようかなと考えました。それからライトノベルを勉強して、書いて、応募した作品が『竜殺しのブリュンヒルド』です。最近はライトノベルを読むことも増えましたし、同期の人間六度先生ともライトノベルについてお話をしたりしています。自分自身、ライトノベルのお話を聞くのも話すのも楽しく、とても面白い環境だと感じています。

 

 

――第一部『竜殺しのブリュンヒルド』の発売から約半年が経過し、大きな反響もあったと思います。ぜひ著者としても本作を振り返っていただければと思うのですが、まずこの物語を通して、東崎先生が描こうとしたものについて教えてください。

 

一言で言うなら「愛」です。先ほども述べたように、応募のきっかけになった『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』も「愛」の物語だったと思いますし、私自身影響を受けて、『竜殺しのブリュンヒルド』を書き始めています。ただ、『竜殺しのブリュンヒルド』は世の中における綺麗で美しく描かれがちな「愛」へのアンチテーゼも含まれているのです。もちろん綺麗な「愛」もたくさんあると思います。でもその綺麗事だけで語ることのできない「愛」もたくさんあると思うのです。自分はその綺麗ではない「愛」の側面を描こうと思いました。今振り返ってみても、その目標は達成できたかなと思いますし、綺麗な「愛」では物足りないという方にこそ、本作は読んでほしい物語だと思っています。

 

竜殺しのブリュンヒルド

※物語を通して描かれたのはひとつの「愛」のかたちだった

 

 

――東崎先生は「愛と正義の物語」が好きだと、あとがきでもおっしゃられていました。『ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』を読む以前からそういった物語を好まれていたのですか。

 

はい。私は少年漫画が特に好きで、最近であれば『鬼滅の刃』、少し時代を遡ると『金色のガッシュベル』が大好きです。『鬼滅の刃』ではつらい展開こそありますけど、最後には鬼舞辻無惨も倒されます。『金色のガッシュベル』は、正義や友情といった感情を動かす要素が盛りだくさんでしたよね。そういう作品を見ると、泣いてしまうくらいに感情を揺さぶられてしまいますし、自分もそんな作品を書きたいと思ってしまうんです。もちろん、好きなものと書けるものは全然違いますので、自分の書く物語はその路線から少しずつズレてしまうのですが、『竜殺しのブリュンヒルド』も最初はそういった感情と想いから書き始めた作品でもあるんです。

 

 

――なるほど。奇しくも目指した路線からズレていき、最終的には復讐者として駆け抜けたブリュンヒルドも、東崎先生は大きな葛藤を抱えながら描いたわけですよね。ブリュンヒルドを描くのはもちろん大変だったと思いますが、他のキャラクターはいかがでしたか。

 

私の場合ですが、物語を書いていると、いわゆる「キャラクターが勝手に動き出す」タイプなんだろうなと思っています。『竜殺しのブリュンヒルド』は想定外の展開が本当に多くありました。当初は死ぬはずではなかった白銀の竜をシギベルトが殺してしまいました。保護されたブリュンヒルドも、猫を被りながら人間としての生活を営んでいくのかと思えば、シグルズとの訓練で本性を垣間見せてしまいます。後者のシーンは特に、物語のターニングポイントになりました。その結果、ブリュンヒルドはシグルズに対して、自身の計画をすべて打ち明けてしまったりもしてしまいます。ザックスも物語の後半ではブリュンヒルドに絆され、それこそ彼女に加担するのではないかというイメージで私自身書いていました。にもかかわらず、彼もまたシギベルトとの友情のようなものが寸前でよぎり、思いとどまることになりましたよね。これらのシーンはいずれもまったく想定していませんでした。正直な話、書いている当人も結末に至り筆を置くまで、どんなラストになるのかわからないまま書いているところがあったので、すべてが大変でした(笑)。

 

竜殺しのブリュンヒルド

※様々なシーンでキャラクター達が想定外の動きをみせながら物語は紡がれていったという

 

 

――結末を決めずに執筆されていたというのは大変面白いなと感じます。逆に想定外の動きのなかったキャラクターはいましたか。

 

読者の評価が異様に高かったブリュンヒルドの実兄、シグルズですね。彼は想定外の動きをするキャラクターに、常に翻弄される立場でした。だからこそ、この物語においては一番想定の範疇に納まったキャラクターにあたるのだろうと思います。個人的にシグルズは、読者の評価と私自身の評価とでギャップの大きいキャラクターだったのですが、その要因はこのあたりにあったのかなと感じています。

 

 

――ありがとうございます。それでは『竜殺しのブリュンヒルド』のキャラクターについて、東崎先生にとってそれぞれどんなキャラクターだったのか振り返っていただいてもよろしいでしょうか。

 

ブリュンヒルドは人間の愚かさを捨てきれないキャラクターだったなと思います。人であり竜でもある、双方の要素を備えてしまったがゆえに、悲しみの多いキャラクターでしたね。最終的にはやや人間寄りにはなりましたけど、結局どちらにもなることができなかった難しいキャラクターです。彼女の至った結末を含め、作者としてもあの結末でよかったのかどうかは未だにわかっていません。ある意味、彼女のみぞ知るということになるのだと思います。彼女以上に強い信念を持ったキャラクターは二度と書けないのではと思わせられるくらい、すべてを注ぎ込んだキャラクターでもあります。

 

ブリュンヒルド

※東崎先生がすべてを注ぎ込んだというブリュンヒルド

 

白銀の竜は少し話しづらいキャラクターですね。大事なキャラクターであることは間違いないのですが、読者のみなさんの感想を大事にしたいキャラクターです。括りとしては神様でもあるので、人間とは違う倫理規範、そして観念を持っています。人間の規範ではなかなか計れない存在でした。

 

白銀の竜

※人間の規範や倫理では語れない存在だった白銀の竜

 

シギベルトは不器用な父親だったと思います。家族だからこそキツイ言動を取ることもあると思っていまして、シグルズに対する親としての感情は常に持っていました。息子想いではあるのですが、うまく表現できず、立ち位置的にも読者のみなさんのヘイトを買う役割になっていたと思います。個人的にそこは申し訳ないという気持ちも少しだけあります。また、物語全体を通して、スカッとするシーンは本当に少なかったと思いますが、シギベルトがブリュンヒルドを追い詰めるシーンは、個人的にスカッとするポイントのひとつだったのかなと思っています。ブリュンヒルドの上手くいきすぎていた策略に楔を打ち込んだ唯一の存在でしたね。

 

シギベルト

※竜とブリュンヒルドの前に立ちはだかったシギベルト

 

シグルズは可哀想な存在だったように思います。なぜあんな中間管理職みたいなキャラクターになってしまったのか……。ザックスが中間管理職をまっとうしきれなかったという声も聴きますが、まさにその通りでした。応募時はあまり考えていなかったのですが、読者のみなさんの感想を拝見して、ブリュンヒルドとシグルズが仲良くできたら、そんなifがあったらいいなと思うようになりました。あとは、ライトノベルであれば主人公は彼だったのだろうとも、あらためて感じています。この物語では竜も含めて、全員が愚かしさを持ち合わせていましたが、シグルズにだけは持たせなかったのです。自分は人間の愚かさを持っているキャラクターに愛着が湧きやすいので、そういう意味でもシグルズへの思い入れが薄かったのかもしれません。でも読者のみなさんにとってはその姿が格好良く映り、評価に繋がったのかなとも思っています。彼については、後々からとても大切なキャラクターだと認識させられました。

 

シグルズ

※大切なキャラクターであることに気付かされたというシグルズ

 

ザックスはこの物語で一番人間の愚かしさを体現していて大好きです。ブリュンヒルドからは「哀れな生き物」と言われてしまうのですが、そのシーンが一番好きですね。哀れではありますけど、それが人間だとも思ってしまいます。ザックスのことはもっと書きたいと思っていました。主要なキャラクターの中で、唯一ザックスだけがイラストとして描き起こされていないのも、残念な気持ちがありつつ、ザックスらしいと納得してしまいました(笑)。

 

 

――シギベルトの不器用な親心というお話もありましたが、シグルズに対してだけでなく、ブリュンヒルドへもその親心は向けられていたのでしょうか。

 

まず、この点については、読者のみなさんが感じ取られたことを優先していただきたいという前置きはさせてください。それを踏まえて私の見解を申し上げると、シギベルトは最後までブリュンヒルドを娘としては見ていなかったと思います。一番の感情は敵、そうでなくても、バルムンクを継がせるための道具として利用すること。シグルズにバルムンクを継がせなくて済む、そんな感覚だったんだろうと思います。ですので、親子としての感情はなかったと思います。

 

 

――ありがとうございます。本作のイラストはあおあそ先生が担当されていました。あらためてお気に入りのイラストについても教えていただけますか。

 

第2巻の表紙も素晴らしいのですが、一番を選ぶとやはり第1巻の表紙でしょうか。あおあそ先生のイラストを最初に拝見させていただいた際も、その独特な絵柄も含めて非常に素敵だなと感じましたし、あおあそ先生のイラストがあってこその『竜殺しのブリュンヒルド』だったなとも思っています。挿絵ではブリュンヒルドがシギベルトに抱き着くシーンを切り取った一枚ですね。私自身、書いている時にも絶対に挿絵が欲しいと思っていたシーンでしたので、印象に強く残っています。

 

竜殺しのブリュンヒルド

 

竜殺しのブリュンヒルド

※東崎先生にあげていただいた印象に残っているイラスト

 

 

――また「少年エース」ではコミカライズの連載もスタートしました。漫画版ならではの見どころや、ご自身として期待しているポイントについて教えてください。

 

一番は『竜殺しのブリュンヒルド』の世界観を絵で描いていただいていることだと思います。これは人それぞれだとは思うのですが、私の小説では極力無駄を省くことに心血を注いでいるところがありまして、情景描写もその中に含まれているのです。だからこそ、コミカライズでは大変なご苦労をおかけすることになったと思っています。私が書いていないので、桐嶋たける先生がエデンの植物や動物などを想像して描いてくださいました。すべて絵として描かれていて本当に素敵だなと思っています。そして連載が続いていきますと、竜が殺されてしまいブリュンヒルドに変化が訪れるシーンが作中にはあります。ブリュンヒルドが変わっていく様子を漫画として見られることは本当に楽しみにしています。あとはザックスにも絵がつくはずですので、動くザックスにもご期待ください(笑)。小屋のシーンにもどう繋がっていくのか、楽しみしかありません。

 

竜殺しのブリュンヒルド

※コミカライズも今後の展開から目が離せない

 

 

――では発売された第二部『竜の姫ブリュンヒルド』についても少しだけお聞きできればと思います。まず、あとがきではこの第二部が非常に難産であったと触れられていましたよね。

 

そうですね。読者のみなさんにも担当編集さんにも言われたことですが、第一部の『竜殺しのブリュンヒルド』で終わるべきだったのではないかというお話にも繋がります。私も未だに、第一部で終わることが正しかっただろうなと思うことがあります。それでも、どうしてもブリュンヒルドの世界観を書き続けたいと思ってしまいました。他の新作にも手を付けようとしましたが、筆が乗らず、一番筆の乗った物語がブリュンヒルドの世界でした。どう続けるべきかと考えるのに多くの時間を要し、そうして受賞の直後から模索を続けて約1年、辿り着いたのが「過去の物語」だったんです。

 

竜の姫ブリュンヒルド

※過去の物語を描いた第二部『竜の姫ブリュンヒルド』で語られる神話とは……

 

 

――過去の物語においても、ブリュンヒルドやシグルズなど、第一部に登場したキャラクターと同じ名前を冠するキャラクター達が登場することになりました。

 

はい。これはブリュンヒルドとシグルズ、二人の仲の良い姿を描きたいと思うようになったからこそ生まれたアイデアでもありました。これなら読者のみなさんをがっかりさせずに、ブリュンヒルドの世界をシリーズ化できるのではないかと。第二部の二人は別人でこそありますが、ブリュンヒルドとシグルズという名前を冠して登場しています。そこには同じ名前の運命のようなものを強く意識しながら執筆しました。第一部のブリュンヒルドを書き続けられないからこそ、その答えを第二部で示せたのかなと思っています。1冊1冊が映画の1本1本となるように、ブリュンヒルドをシリーズ化させていけたら嬉しいですね。

 

 

――また、第二部では第一部のキーワードとなる「名前」や「名称」に宿る運命も描かれました。ブリュンヒルド、ジークフリート、バルムンクなどに宿る原点、その真実を知った上で第一部を読み返すと、また違った景色も見えてくるような気がします。

 

おっしゃっていただいたような読み方をしてもらえるのだとすれば、それはとても嬉しいことです。もちろん第二部から読み始めても楽しむことはできます。でも、第一部あってこその第二部であるということも間違いありません。物語における「繋がり」はありますが、前の物語を読まなきゃいけない程の「繋がり」というわけでもないので、どちらが先でも大丈夫です。そして本シリーズでは、ブリュンヒルドとシグルズという名前が有する運命を描いていきたいと思っています。イメージとしては『ジョジョの奇妙な冒険』が近いかもしれません。様々なブリュンヒルドとシグルズ、できればそれ以外のキャラクターも出したいです。その最初のひとつめがこの第二部『竜の姫ブリュンヒルド』です。第三部の構想も既にありますので、ぜひ期待していただければと思います。

 

 

――著者として本作の見どころや注目のポイントを教えてください。

 

内容というよりも、まずは読書が苦手な方に読んでもらえたら嬉しいなと思います。私自身、読書が得意ではありません。そういう人間が書いたものであるからこそ、読書が苦手な方でも読めるのではないかと思うのです。やっぱり小説を読むのは、漫画やアニメに比べると大変だと思います。それでも面白い小説はたくさんあります。日頃小説を読まない方に手に取っていただけたら嬉しいです。

 

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

まずはブリュンヒルドのシリーズを満足するまで書き続けたいです。そして舞台やミュージカルのようなメディアミックスも展開されたら、と考えてしまいます。また、ファンアートを眺めるのが好きなので、もっとファンアートが増えたら嬉しいですね。作家としての目標は、現在手掛けているブリュンヒルドのシリーズに囚われないようにしたいと強く考えています。書く能力があるかどうかは別とした上で、ギャグであったりラブコメであったり、様々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。

 

 

――それでは最後にファンのみなさんにメッセージをお願いします。

 

読者のみなさんの応援のおかげで、ブリュンヒルドのシリーズを続けていくことができそうです。続く作品たちも全力を出して執筆いたしますので、これからも応援していただけたらとても嬉しく思います。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

一人の少女が復讐者として駆け抜けることになった「愛」の物語を綴る東崎惟子先生にお話をうかがいました。そして動き出した『ブリュンヒルド』シリーズ。第二部では第一部の原点とも言える過去の物語が描かれ、第一部とは異なる「愛」の形も描かれていくことになります。ブリュンヒルド、そしてシグルズという名前が持つ運命を描いていく『ブリュンヒルド』シリーズは必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©東崎惟子/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:あおあそ

kiji

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『竜殺しのブリュンヒルド』特設サイト

電撃文庫公式サイト

 

竜の姫ブリュンヒルド (電撃文庫)
竜殺しのブリュンヒルド (電撃文庫)

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