独占インタビュー「ラノベの素」 持崎湯葉先生『陽キャになった俺の青春至上主義』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2023年1月15日にGA文庫より『陽キャになった俺の青春至上主義』が発売される持崎湯葉先生です。第14回GA文庫大賞にて「金賞」を受賞し、満を持して書籍を刊行されます。陰キャから陽キャへと見事に高校デビューを成功させた主人公が、なぜか周囲に集まってくる陰キャたちと織り成す青春ラブコメを描く本作。「自由に生きること」がテーマのひとつであるという物語についてはもちろん、「ピンク髪はむしろ陰」というパワーワードも象徴する個性豊かなキャラクターたちなど様々にお話をお聞きしました。
【あらすじ】 【陽キャ】と【陰キャ】。世界には大きく分けてこの二種類の人間がいる。限られた青春を謳歌するために、選ぶべき道はたったひとつしかない。つまり――モテたければ陽であれ。元陰キャの俺、上田橋汰は努力と根性で高校デビューし、陽キャに囲まれた学校生活を順調に送っていた。あとはギャルの彼女でも出来れば完璧――なのに、フラグが立つのは陰キャ女子ばかりだった!? ギャルになりたくて髪染めてきたって……いや、ピンク髪はむしろ陰だから! GA文庫大賞《金賞》受賞、陰陽混合ネオ・アオハルコメディ! 新青春の正解が、ここにある。 |
――それでは自己紹介からお願いします。
作家の持崎湯葉です。出身は栃木県で、作家としての経歴は2015年1月にデビューしたので、もうすぐ8周年になりますね。このたび第14回GA文庫大賞にて「金賞」を受賞させていただきました。好きなものは映画鑑賞やNetflixでのドラマ鑑賞、あとはスポーツ観戦でしょうか。苦手なものは見た目と食感と味のギャップが強いアボガドですね。それこそどこかの原稿で、自身のアボガド嫌いを代弁させていた気もします(笑)。マイブームはCoCo壱番屋で、GO TO Eatのお食事券でちょっとお高いところに行こうと思っていたんですけど、結果としてそのほとんどをCoCo壱で使ってしまっています……。
――ありがとうございます。映画やドラマではどのような作品がお好きなんですか。
映画やドラマは本当にたくさん観ているんですけど、ここ最近で一番面白かったのは『RRR アールアールアール』という映画です。自分は映画館で観たんですが、エンドロールまでずっと面白いんですよ。一切ストレスを感じることなく、3時間楽しい思いができて、新鮮でもあり、ちょっとした感動体験でもありました。個人的にはスマホを手放して集中できる環境が映画館かサウナくらいしかなく、映画館で過ごす時間はとても大事にしています。
――スポーツ観戦もお好きということですが、ご自身でも何かスポーツはやられているのでしょうか。
いえ、自分はせいぜいジムに行くくらいです。週2回のジム通いも約1年間続けることができていて、30分くらいの筋トレと市販のプロテイン飲料を飲んでいたら、なんとなく筋肉や胸筋がしっかりとしてきているんですよ。社会人になってくると自分の成果って見えにくくなるじゃないですか。それに対して、筋肉は自分の頑張りがしっかり成果として見えるんです。筋肉は裏切らないっていう言葉の意味と気持ちがよくわかりました(笑)。
――ジム通いをされている方々の共通点のひとつですね(笑)。それではあらためて、第14回GA文庫大賞「金賞」受賞の率直な感想をお聞かせください。
実は一次選考を通過するまで、原稿を送っていたことを忘れていました(笑)。応募の直後、立て続けに書籍の企画が通りまして、急に忙しくなってしまったんです。なので、執筆作業の慌ただしい中で一次選考の通過を知ることになり、そういえば、と思い出すことになりました(笑)。そこからはもう、一次選考を通過すれば脳みそは「受賞するかもしれない」という考えでいっぱいですよね。自分としても面白いものを書けたという手応えもあったので、受賞の連絡をいただくまで、ずっともやもやとした気持ちを抱えながら過ごしていました。一方で、過去に受賞した2つの賞では、どちらも上位の賞ではありませんでした。受賞理由も特定の編集さんが猛烈にプッシュしてくれたことで受賞できたという背景もあったようなので、今回も上位の賞をいただくのは難しいだろうなとは漠然と考えていました。割り切っていたわけではありませんが、自分の作品はそういうタイプの作品なんだろうと。なので「金賞」というお話を聞いた時は、率直にありがたいなと感じました。
――持崎先生は既に作家デビューをされているわけですが、公募に応募した理由はなんだったのでしょうか。
シンプルに表現するなら原点回帰ということになると思います。自分自身、「小説家になろう」や「カクヨム」などの投稿サイトへの挑戦も遅くて、それこそコロナ期に入ってから始めたくらいでした。書籍化を経験していた身からすると「こんな形で本を出すことができるのか」という面白さや発見がありました。今回受賞させていただいた作品は、少しばかり投稿サイトで連載していた時期もあったんです。ただ、あらためて読み返した時に、この作品はWEBでヒットするタイプではないと気付きました。なので公募用というわけではないんですけど、文庫本1冊として評価してもらいたい作品という思いも強くなり、ちょっと応募してみようと思ったんです。
――なるほど。持崎先生の経歴を振り返ると、2018年から2020年は書籍を刊行していない時期がありましたよね。おっしゃられていたように、試行錯誤を繰り返されていたのでしょうか。
そうです。特に作家業を休止していたというわけでもなく、単純に企画書を練っては書いてを繰り返していました。みなさんが覚えてくださっていたら嬉しいのですが、『その10文字を、僕は忘れない』を2016年に刊行させていただいています。ありがたいことにちょっと評価をされて、なんとなくラノベ好きの方にも自分の名前を覚えてもらえたという感覚がありました。その時から、自分の中に「10文字病」のようなものが生まれてしまったんです。10文字のような作品を書かなくちゃいけないだとか、感動路線を書かなくちゃいけないだとか、そんなことを考え続けてしまった結果、どんどん独りよがりになっていたことも否めませんでした。本を出せなかった時の企画は、見返してみるとかなり無理筋なものも多かったですしね(笑)。
――『その10文字を、僕は忘れない』はラノオンアワードでも4冠を獲りましたし、「このライトノベルがすごい!」でも新作部門で14位に位置して注目を集めましたが、良い方向だけに向かえたわけではなかったのですね。ご自身の中で、あらためて作品が動き出すことに至れた契機のようなものはあったのでしょうか。
これは明確にありました。「小説家になろう」に作品投稿を始めて、『パパ活JKの弱みを握ったので、犬の散歩をお願いしてみた。』をガガガ文庫さんから書籍化することができました。WEB投稿作としては初めて書籍化に至り、かなり久しぶりに本を出すことに繋がったんです。言うなれば、あのタイミングが持崎湯葉の第二の作家人生のスタートだったんじゃないかと(笑)。これまでの自分が面白いと思った作品作りのスタイルから、ちょっとした流行のようなものを織り交ぜて、かつ込めたいメッセージを込めて書くスタイルへと変化していったように思います。そして自分自身でも、きちんとエンタメになっていると感じられたことが、非常に大きな転機に繋がったんじゃないかなと思いますね。
――それでは第14回GA文庫大賞「金賞」受賞作『陽キャになった俺の青春至上主義』がどんな物語なのか教えてください。
本作は中学時代に陰キャと呼ばれていた主人公の少年が、とある理由から一念発起して高校デビューし、陽キャになった青春ラブコメです。バラ色の高校生活へのスタートダッシュを切ることはできたのですが、周囲にはなぜか陰キャなタイプの女子が多い。ネタバレになってしまうため深くは語れないのですが、陰キャな女の子たちと出会ったことで、陽キャとしての自分の在り方を見つめ直していくという物語でもありますね。
※元陰キャの主人公のちょっと変わった青春物語が始まる
――本作の着想についても教えていただけますでしょうか。
やや話としては回り道になるのですが、WEBに小説投稿を始めた頃、当時のTwitterには24時間だけつぶやきのログを残せるフリート機能があったんですね。そこで「僕なりに陽キャと陰キャに言いたいことがあって書きました」みたいなつぶやきをしていたんです。今はそのつぶやき自体は見られませんが、後年のためを思ってかスクリーンショットを撮っていて……おそらく、つぶやきとして残し続けるのは恥ずかしいとでも思ったんでしょう(笑)。この作品についても、ある意味で陽キャと陰キャについて言いたいことがある作品でもあって、そういったカテゴライズに対する自分の考えであったり、想いを詰め込んだ作品でもあるんですよ。
――ライトノベルでも陽キャと陰キャという概念を描く作品も増え、気付けば定着しましたよね。
そうですね。ただ思い返してほしいのですが、陽キャと陰キャという言葉自体が日常的に使われるようになったのも、最近と言えば最近だと思うんです。昔からある言葉ではないし、個人的には未熟な言葉だとも思っています。知り合いの中でも自虐する時に「俺って陰キャだから」っていう言葉を聞くようになりましたが、そういったアクションに対する違和感のようなものはずっとありました。ちょっと大げさになっちゃいますけど、自分の中での陽キャは、他人と接したり交流を多く持つことによって、社会や世界を知る人たちなんです。対して陰キャは、マクロとミクロみたいなもので、自分の中に入っていくことによって、自分や世界、世界にいる自分を知っていく存在なんだろうなと思っています。本作ではそういった点にも少しばかり触れながら執筆させていただきました。
――ありがとうございます。それでは陽キャと陰キャという言葉からは切り離せない登場キャラクター達について教えてください。
主人公の上田橋汰は、元陰キャであり、高校デビューで陽キャになった存在です。自分の行った努力に対するプライドをしっかりと持っているキャラクターでもありますね。周囲にも気を配れるし、陰キャの気持ちも理解してあげられる、陽キャで居続けたい少年です。
※陽キャとして高校デビューを果たした橋汰
七草遊々は陽キャになった橋汰が初めて触れる陰キャの女の子です。陰キャという大きな括りの中においては、かつての橋汰に近い存在でもあります。遊々は少女漫画脳でストーカー気質、やたら行動力があって距離感が近い。空いている店内で、なぜか無自覚に隣に座ってくる、そんな子です。
※ギャルと言えばピンク髪と勘違いした遊々
青前夏絵良は見た目通りの陽キャなギャルです。これはあとがきでも書いているんですけど、応募時とは名前も性格も見た目も違いました。改稿前は良い子なんですけど小さくまとまり過ぎていたので、過大に表現した結果ギャルになりましたね(笑)。自分の中では陽キャの象徴でもあって、主人公とも仲の良いグループの友達です。橋汰はカエラに対して、ちょっとした恋心のようなものを抱いていたりもします。
※橋汰が密かに想いを寄せるギャルのカエラ
宇民水乃は、遊々の持つ陰キャ属性からさらにピンポイントで橋汰の中学時代を象徴するかのような女の子です。他者に対して攻撃的な面を持っているのですが、橋汰が一番、彼女が何を考えているのか、その気持ちを理解できてしまうキャラクターでもあります。
※強烈な口撃を繰り出していく水乃
三井龍虎は主人公と同性の男子側の陰キャです。橋汰は手を差し伸べたい気持ちはあるけれど、努力をしない陰キャでもある龍虎のことをあまり快くは思っていません。男として顔の良さを自覚はしていて、だからこそこのままでいいとも思っている。橋汰からしてみれば、自分の半分の努力でうまくやっていけるはずなのに、現状に甘んじている龍虎にはもどかしさを感じています。
※顔の良さへの自信だけは半端ない龍虎
小笠原徒然は陽キャ中の陽キャ、ただの良い奴です(笑)。ややメタな話になってしまいますが、こういう友達がいたらいいよねっていう、理想の友人像を具体化しました。
※ただのアホという説もある友人想いの徒然
――本作をキャッチコピーでもある「ピンク髪はむしろ陰」を体現した遊々は、外見から大きな変化を遂げるわけですが、元々高校への進学をきっかけに変わりたいと思っていた女の子だったのでしょうか。
変わりたいとは思っていたものの、作中で描かれるほどの変化をするつもりはなかったと思います。作中でも触れていますが、眼鏡からコンタクトに変えるくらいのイメチェンをしようとは思っていたけれど、自分に自信がなくてできませんでした。一人ではダメで、背中を押してくれる人がいないと行動できないタイプでもありますね。それでも大胆にイメチェンを図ったのは、自分のためというよりも、少しでも橋汰の好みの女の子になるためだったことも、大きなきっかけになったと思います。ピンク髪っていう、ラノベやアニメでモチーフにされている髪色は、明るい女の子の象徴だと思うんですよ。それに対するギャップ狙いでもありました。まあ、最近はギターを弾いているピンク髪の陰キャ女子もいましたけど(笑)。
※変わりたいと密かに願っていた遊々は一足飛びで大変身を遂げる
――ありがとうございます。続いて、イラストはにゅむ先生が担当されています。あらためてキャラデザの感想やお気に入りのイラストがあれば教えてください。
表紙を見てもらえたらと思うんですけど、遊々の表情を自分のイメージ以上に表現していただいたと思っています。何度見ても思いますが、表紙に一番彼女らしさが出ているなと。また、個人的には小森先生のキャラデザは印象深かったです。すごく容姿はいいのに中身がクズなわけなので、これが真面目系クズなんだって(笑)。今後も出番が増える気もするキャラクターの一人なので、読者の方にも面白いと思ってもらえたら嬉しいですね。お気に入りのイラストは、口絵として描かれている遊々とカエラのイラスト、そしてキャラクター達の楽しそうな雰囲気の出ているイラストでしょうか。自分としても主要キャラクターを6人も登場させたのは初めてでした。これまでは3人や4人の小さなコミュニティで物語を描いてきましたが、今作はしっかりと各キャラクターを描き切ることができたなと思っています。6人が揃った時の楽しさを感じてもらいたい作品でもあるので、作品を象徴した1枚なんじゃないかなと思います。
※真面目系クズの小森先生をはじめ、各キャラクターの豊かな表情にも注目してもらいたい
――あらためて、著者として本作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょうか。
見どころとしては、主人公が元陰キャの陽キャなので、生まれながらの陽キャにはない陰キャの気持ちも理解してあげられる点です。そんな彼が、少しクラスで浮いていたり、悩んでいたり、燻っている感じの子たちに、どう接してどう助けていくのか、その様は爽快に映っているんじゃないかなと思います。この作品の一番大切なところは、自由に生きるということです。学校という社会で過ごしている中高生の方はもちろん、自分に自信のない方が、自分でもいいんだと思えるような作品になっていると思いますので、ぜひ注目していただけたらと思います。
――今後の野望や目標があれば教えてください。
本作の目標としては、既に数巻先の構想も頭の中にありますので、できるだけ長く書き続けたいですし、続けられる題材だとも思っています。まずはしっかりと続刊を書いていくことですね。作家としての目標は2023年内に5冊前後の書籍を出したいと思っています。また、あらためて「このライトノベルがすごい!」の上位にランクインすることができればとも思っています。10文字病に対する自分自身の答えが、本作やガガガ文庫から出ている『恋人以上のことを、彼女じゃない君と。』だと思っていますので、ぜひ応援していただけたら嬉しいです。
――最後にファンの方、また本作を通して持崎先生を知られる方にメッセージをお願いします。
この作品で初めて持崎湯葉を知った方は、とにかく純粋に作品を楽しんでいただけたらと思っています。あらゆる方向に対して風通しのいい作品ですし、メッセージ色の強さも気にせず、「青春っていいよね!」って思いながら楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。そして自分の作品を追って読んでくださっている方は、ある意味で持崎湯葉の集大成と言ってもいい作品です。これまで作家として積み上げてきたものが集約した青春ラブコメ作品なので、満足していただけるのではないでしょうか。10文字を読んで感動してくださった読者が、持崎湯葉の現在を再確認できる超王道な青春ラブコメですので、どうぞよろしくお願いします。
■ラノベニュースオンラインインタビュー特別企画「受賞作家から受賞作家へ」
インタビューの特別企画、受賞作家から受賞作家へとレーベルを跨いで聞いてみたい事を繋いでいく企画です。インタビュー時に質問をお預かりし、いつかの日に同じく新人賞を受賞された方が回答します。そしてまた新たな質問をお預かりし、その次へと繋げていきます。今回の質問と回答者は以下のお二人より。 |
第16回小学館ライトノベル大賞「優秀賞」受賞作家・新馬場新先生
⇒ 第14回GA文庫大賞「金賞」受賞作家・持崎湯葉先生
【質問】
プロットについてお聞きしたいのですが、どのくらいの量や正確さで書かれているのでしょうか。自分はすごくざっくりで、キャラクターやビジュアルイメージを考え、ありそうなシーンを決めてしたためている感じです。どこまで細かく書いているのか、ラストシーンは書いているのか、ファイルは何で管理しているのか、プロットの秘密を教えてください!
【回答】
プロットについては自分もかなり少ない方だと思います。基本はワードを使うことが多くて、本作をプロットとして提出するのであれば、1ページにモチーフやテーマ、キャラクターを入れ、残りの2、3ページにストーリーを書くくらいだと思います。ストーリーの部分は、キャラクターの心の動きを中心に書き、シーンは執筆のライブ感の中で生まれていくイメージですね。なので、あまり細かなシーンは意図的に書かないようにしています。その代わり、原稿執筆時には推敲をたくさんしますし、前日書いたところを読み返す習慣をつけ、整合性を取れるようにしています。プロットはあくまで骨組みで、骨そのものが大きく変わることはなく、執筆で肉付けしていくイメージです!
――本日はありがとうございました。
<了>
陰キャから陽キャへと高校デビューを果たした少年が、様々な陰キャたちと織り成していく青春模様を綴った持崎湯葉先生にお話をうかがいました。陰キャたちと出会うことで、陽キャになった自分自身を見つめることにも繋がっていく、新しい青春模様を描いていく『陽キャになった俺の青春至上主義』は必読です!
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©持崎湯葉/ SB Creative Corp. イラスト:にゅむ
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