独占インタビュー「ラノベの素」 榛名丼先生『レプリカだって、恋をする。』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2023年2月10日に電撃文庫より『レプリカだって、恋をする。』が発売された榛名丼先生です。第29回電撃小説大賞にて「大賞」を受賞し、満を持して書籍が発売されます。「もし、自分の代わりに面倒事や苦労を背負ってくれるもうひとりの自分がいたら」。便利な身代わりとして呼び出される少女の分身体を主人公に描く、ほろ苦くも純粋で、そして「初めて」にあふれる青春ラブストーリー。敢えてレプリカにスポットをあてた物語の内容はもちろん、登場するキャラクターについてなど、様々にお話をお聞きしました。

 

 

レプリカだって、恋をする。

 

 

【あらすじ】

具合が悪い日、面倒な日直の仕事がある日、定期テストの日……。彼女が学校に行くのが億劫な日に、私は呼び出される。愛川素直という少女の分身体、便利な身代わり、それが私。姿形は全く同じでも、性格はちょっと違うんだけど。自由に出歩くことはできない、明日の予定だって立てられない、オリジナルのために働くのが使命のレプリカ。だったはずなのに、恋をしてしまったんだ。好きになった彼に私のことを見分けてもらうために、髪型をハーフアップにした。学校をサボって、内緒で二人きりの遠足をした。そして、明日も、明後日も、その先も会う約束をした。名前も、体も、ぜんぶ借り物で、空っぽだったはずの私だけど――この恋心は、私だけのもの。海沿いの街で巻き起こる、とっても純粋で、ちょっぴり不思議な“はじめて”の青春ラブストーリー。

 

 

――それでは自己紹介からお願いします。

 

静岡県静岡市出身の榛名丼と申します。小説を書き始めたのは小学生の頃からで、友人とみんなで小説投稿サイトのような場所で、小説や詩を書いたりしていました。自分にとって小説を書くというのは昔から身近なものでした。好きなものは焼き鳥のぼんじり、あとは焼肉も大好きですね。焼き鳥も焼肉もお酒のおつまみではなく、主食として大好きです!

 

 

――小説や漫画やゲームなど、エンタメ系でお好きなものはありますか。

 

遊び続けているゲームで言うと、スマホアプリの『Fate/Grand Order』はかなり長くやっていますね。あとは『艦隊これくしょん』もサービス開始時からずっと続けているので、趣味のひとつかなと思います。

 

 

――どちらもかなり長い期間運営されているゲームですが、長期間遊び続けている魅力はなんなんでしょう。

 

これはあくまで私の場合なんですが、私はどんなコンテンツでも、いわゆる「推し」ができると、のめりこんで何年間も楽しめるんですよね。何にハマるにしても、キャラクターにハマれないとあまり続かない傾向があります。Fateで言うと、それこそ『Fate/stay night』からギルガメッシュが好きで、FGOにもそのままのめり込むことになりました。『艦隊これくしょん』では五月雨ちゃんっていう可愛い女の子がいるんですけど、もうずっと好きで、その子を追いかけ続けるために遊んでいます。ライトノベルや漫画でも、キャラクターにハマらないとハマれない感じはしていますね。

 

 

――小説の執筆は小学生の頃からやっていたということですが、具体的に自分で書いてみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

 

これは明確に覚えていて、自分には2歳年上の姉がいるんですけど、小学生の当時、姉の真似をすることにハマっていたんですね。そして姉が突然「小説家になる」って言いだして、「それじゃあ私もなる!」みたいな感じで書き始めました(笑)。もちろんずっと書き続けていたわけではなく、大学生の頃からライトノベルなどもほとんど触れなくなってしまったんですけど、就職してから「小説家になろう」の存在を知って、また小説を書き始めるようになりました。

 

 

――お姉さんの真似からのスタートという、すごく小学生らしい理由からの始まりだったんですね(笑)。

 

そうですね。姉はその後小説家になることはありませんでしたが、読書量で言うと私よりも圧倒的で、毎日ずっと本を読んでいます。私がたまに小説の展開に悩んだ時に相談することもあって、アドバイス的なことはかなりしてもらっていますね。また、姉は図書館で働いていて、職場全体で応援もしてもらっているのもすごくありがたいです。姉経由でファンレターやプレゼントをいただいたり、サインを書かせていただいたり。ただ、相談には乗ってくれるんですけど、最近は積極的に私の本を読んでくれている様子はないですね。「読んだ?」って聞いても「ほかの本を読んでいる」って言われるので(笑)。

 

 

――ありがとうございます。それではあらためて、第29回電撃小説大賞「大賞」受賞の率直な感想をお聞かせください。

 

もともと担当編集さんからは「最終選考が終わった時点でお電話を入れる」とお伝えはいただいていました。でも電話がかかってきた時にいつもとは違う番号で、不審な電話だと思って取らなかったんですよ(笑)。その後よくよく考えると選考の件かと思い、またお電話をいただいてお話をしたんですけど、その一言目が「残念ですが……」って言われて(笑)。

 

 

――電撃文庫編集部の伝統は脈々と受け継がれていますね(笑)。

 

あれ伝統なんですか!(笑)。ただ、言われた身としては「残念ですが……」の一瞬で、頭の中をコスモが巡りましたよね。数秒ですけど、それこそ走馬灯みたいな。その後に「大賞です」って言われたんですけど、私自身ふわっとした感じになってしまって、うまく自覚できませんでした。それで連絡をいただいた日に夢を見たんですけど、その夢でもずっと「残念ですが」って言われ続けるという(笑)。何度も「残念ですが」と言われる夢を見て、もうどっちが現実なのかわからなくなりました。「残念ですが普通にダメでした」という現実を、私の脳が「大賞を獲った」って勘違いした可能性もあって、すごく不安な気持ちになりました。さすがに今は大丈夫ですけど、いまいち「やったー!」みたいな感情の発露はなかったんですよね(笑)。

 

 

――あらためて受賞を自覚、あるいは確信したのはどのタイミングだったんですか。

 

私自身、なんら確信を持てないまま贈呈式に向かったんですけど、その際にみなさんがすごい「おめでとうございます」って言ってくださって、「あ、現実だったんだ」って感じました。それまでは改稿作業こそ進んでいましたが、ずっと疑心暗鬼にとらわれていましたね(笑)。

 

 

――なるほど。榛名丼先生は既に作家デビューされている身ですが、電撃大賞にあらためて応募した理由はなんだったのでしょうか。

 

実はまだ作家デビューをしていなかった頃、第27回電撃小説大賞には応募していて、結果は普通に一次選考落ちでした。私自身、小学生の頃から電撃文庫さんの作品を読んでいたこともあり、「いずれ電撃大賞を獲る!」みたいなことを言い張っていた時期もあったんです。ただ、応募自体はまったくしておらず、このまま1回も応募しないのはさすがにダメだなと思って、第27回に送ったんですね。その後に小説投稿サイト経由でデビューが決まったのですが、私の書いているジャンルは電撃文庫さんのカラーとはだいぶ異なるジャンルだったので、このまま作家を続けていても電撃文庫さんと交わるのは難しいなとも感じていたんです。なのでもう1回ちゃんと送ってみようと考え、第29回へ2作品を応募し、ありがたいことにそのうちの1作品が受賞することになりました。

 

 

――「電撃大賞を獲る」と言っていたことからも、小学生の頃からより具体的に作家を目指していたということでしょうか。

 

そうです、と言いたいところではあるんですけど、普段から有言不実行といいますか、目標は立てるけど具体的に行動することが少なくてですね(笑)。もちろん書いてはいたんですけど、本にしたいとか、作家になりたいということを意識して行動していたかというと微妙だったんじゃないかなと。それこそ具体的に書籍化を思い描いたのは本当に最近で、就職後に小説投稿サイトで書き始めたくらいのタイミングです。そのあたりから真剣に取り組むようになりました。それまではほぼ趣味の範囲でしたね。

 

 

――ありがとうございます。それでは「大賞」受賞作『レプリカだって、恋をする。』はどんな物語なのか教えてください。

 

このお話は、自分のそっくりさんを生み出すという特殊な能力を持つ女の子から生まれてきた、作中ではレプリカと呼ばれる女の子の物語です。オリジナルのために学校へ行ったり、テストを受けたり、健気に頑張っているのですが、レプリカはオリジナルからほとんど顧みられることはありません。頑張っても認めてもらえない苦しさの中で生きています。そんな彼女が、文芸部という自分だけの場所で様々な出会いや気持ちを経験して、変わっていく姿を書いた作品になります。初めての青春、初めてレプリカが恋愛をしていくドキドキ感や、オリジナルとの衝突や問題とも向き合っていく、そんな内容になっています。

 

レプリカだって、恋をする。

※愛川素直のもうひとりの自分である「ナオ」の物語が描かれる

 

 

――着想についてはあとがきでも少し触れられていましたが、あらためて教えていただけますでしょうか。

 

まず、世の中にはドッペルゲンガー、本作で言うレプリカのような、もうひとりの自分が登場する作品は結構あると思うんですよ。ただこのお話では、レプリカ側を主人公に据えていて、その点が選考委員の皆様からも評価していただけたんじゃないかなと思っています。たとえば「ちょっと学校に行きたくない」や「面倒な用事があるから自分の代わりに出席してくれたら便利だな」とか、私自身そんなことを常に考えていました。そうすると、自分はサボって遊ぶことができるわけですけど、一方で代わりを務めている側はどんな気持ちなんだろう、ということも結構考えていたんですね。今回電撃大賞に作品を送ろうと思った時に、そんな以前に考えていたことを思い出して書いてみようと思ったのが、執筆のきっかけになったと思います。

 

 

――ドッペルゲンガーや本作におけるレプリカは、「本物がいてこその存在」だと感じるのですが、そのオリジナルよりも前面に出してレプリカを描かれていたことは、視点がすごく新鮮だなと感じました。

 

ありがとうございます。私が以前に読んだ小説でドッペルゲンガーが登場する作品の終わり方は、いくつかパターンが決まっていたのかなと感じていました。主人公はもちろんオリジナル側なので、最終的にドッペルゲンガーは消えてしまうか、オリジナルと合体や融合をしてしまうか、そんな感じだったと思います。オリジナルの主人公は、ドッペルゲンガーとの出会いで、経験を含めた様々なものを手に入れられます。それなのに、ドッペルゲンガーは消えることが主題や本質である場合が多く、私的にはそちら側に救いがほとんどないことが、ちょっと寂しいなと感じていたんです。だからこそ、本作ではレプリカ側に寄り添い、書き切ろうと考えました。

 

 

――それでは本作に登場するキャラクターについても教えていただけますでしょうか。

 

オリジナルの愛川素直は、少しひねくれた性格をしていて、作中はレプリカであるナオの視点で物語が動きますので、嫌なところを含めて、ある意味隠し事ができないような描き方をされています。もともと本作に登場する高校生たちは、全員等身大で書きたいという思いが念頭にありましたので、エンタメコンテンツに登場する子たちにありがちな「良い子すぎるキャラクター」にはしたくなかったんです。ただ担当編集さんからは、素直のことを「悪人のように見せたくはないよね」とは言われていましたし、私自身もその点は気をつけました。

 

レプリカだって、恋をする。

※ナオを生み出した少女・愛川素直

 

愛川素直のレプリカであるナオ(セカンド)は、少し子供っぽい女の子を意識しました。彼女の場合はずっと表に出ているわけではないので、感性自体は年相応ではなく幼めになっています。好奇心や前のめりな姿勢、純粋さを大切に意識したキャラクターなのかなと思います。

 

レプリカだって、恋をする。

※素直のレプリカであるナオ

 

真田秋也はもともとバスケ部に所属していて、ややミステリアスさと謎を抱えたキャラクターとして登場します。最初は仏頂面で冷たいイメージなんですが、実際は普通の高校生らしく、照れ屋だったり、笑い上戸なところがあったりします。

 

レプリカだって、恋をする。

※元バスケ部員の真田秋也

 

文芸部に所属し、素直の後輩でもある広中律子は、ある意味で一番等身大の高校生なのかなと思いますね。日々の勉強を嫌がりつつ、熱中している小説の執筆が大好きで、とにかく一生懸命です。文芸部パートでは、りっちゃんが物語を引っ張っていってくれているかなって思います。

 

レプリカだって、恋をする。

※素直の後輩である広中律子

 

 

――本作を読んでいるとずっと考えさせられる「オリジナルとレプリカ」の関係性。榛名丼先生にとって、オリジナルとレプリカの一番の違いはどんなところだと考えていますか。

 

すごく難しい質問なんですよね、これ。違い、というよりはナオちゃんの立ち位置から言うのであれば、まず自在に動くことができず、オリジナルに「もういいよ」って言われると消えてしまいます。普通の人間ではないんですよね。そしてオリジナルにとって当たり前であることを、ナオはひとつも獲得することができません。スマホや自転車だって、ナオにとってはすべて借り物なんです。作中でも「これは私のじゃない」や「これはお母さんのものだった」とか、いつも意識しないといけません。そう考えると、心の拠り所のような安心材料が彼女にはないわけで、ナオが不安定な理由にも繋がっているのかなと思います。好きなものを買って、それが手元にある、自分にはこれがあるという支えがないというのは、大変という言葉では表せないくらい不安なものなんだろうなと思います。

 

 

――ありがとうございます。では続いて、本作はraemz先生がイラストを担当されています。イラストにおける印象やお気に入りのイラストを教えてください。

 

raemz先生のお名前は知っていまして、候補のイラストレーターさんを何名か挙げていただいた際にお名前があり、個人的にもぜひにとお願いさせていただきました。女の子の柔らかい感じや、水の表現がすごく爽やかかつお上手で、本作が海沿いの町を舞台にしているということもあり、イラストイメージはドンピシャでしたね。お気に入りのイラストはナオと素直が描かれた表紙のイラストです。書店さんで見かけたら、ついふらふらと近づいていってしまう、そんな魅力があると思います。可愛いだけではなく、レプリカという不安定な立場を、水面反射も利用して表現していただいたり、とにかく素敵なイラストになっています。どのイラストも好きなんですが、口絵で描かれている動物園のシーンも、高校生らしい初々しさを表現していただいて、私自身好きな一枚だなと思います。

 

レプリカだって、恋をする。

 

レプリカだって、恋をする。

※榛名丼先生が選んだ特に気に入っているイラスト

 

 

――あらためて、著者として本作の見どころや注目してほしい点はどんなところでしょうか。

 

見どころは作品の空気感をはじめ、ナオが感じているものをそのまま描いたつもりなので、夏の気だるさやちょっとした彼女の仕草や行動、そのあたりに注目していただけたらなと思っています。今挙げた見どころは、最終選考委員のご指摘にもあった「序盤がやや冗長」な部分にあたるのかなとも思っています。でも、書籍化にあたっては極力変えないようにしようと考えた点でもありました。本作の序盤は、レプリカであるナオが見る日常の風景から始まります。ナオが感じているものをそのまま書きたかったので残すことに決めつつ、レプリカであるナオらしさを読者の方に感じていただければと思いました。また、推薦コメントもたくさんいただきまして特に印象的だったのが、「初めての恋をしているあなたと、かつて初めての恋をしたあなたにこっそりお薦めしたい」という岬鷺宮先生のコメントでした。今大人のみなさんは、本作と一緒に学生の頃に戻っていただくではないですけど、高校時代に感じていたクラスメイトとの関係性や会話、胸に抱いていた焦燥感など、一喜一憂していた当時を思い出しながら読んでいただきたいなと思っています。また、今学生の方々は、当事者のひとりとして読んでいただけたら一番嬉しいかなと思っています。ほかには、朝井リョウ先生や凪良ゆう先生の作品が好きな方や、担当編集さんからは『青春ブタ野郎』シリーズが好きな方は面白く読んでもらえるのではと言っていただけているので、ぜひ手に取っていただければと思います。

 

 

 

――今後の野望や目標があれば教えてください。

 

本作における目標は、大それた目標ではありますけど、アニメ化や映画化のようなメディアミックスが展開されていくといいなって思っています。私個人としては、これまで恋愛系の作品を出版させていただいてきているんですけど、自分のもっとも好きなジャンルでもある、デスゲームや推理もの、そういったジャンルの作品も執筆できればいいなと思っています。

 

 

――最後にファンの方やこれから本作を読んでみようと思っている方へ一言お願いします。

 

今まで私の作品を読んでくださっていた方へは、ジャンルはこれまで書いてきた作品とはちょっと違うのですけど、そこは気にせず、どなたでも楽しんでいただける物語を書きましたので、ぜひ手に取ってもらえたなと思います。そしてこれから本作を手に取ってくださる方へは、raemz先生のイラストが本当に最高なので、お見かけの際はぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。また、この作品は静岡を舞台にした物語でもあるので、舞台の近郊に住まわれている方は知っている景色も多いんじゃないかと思いますので、そこも楽しんでいただけたら嬉しいです。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

オリジナルから生まれ落ちたレプリカという存在が織り成す青春ラブストーリーを綴った榛名丼先生にお話をうかがいました。オリジナルとレプリカの関係性はもちろん、レプリカが持つ純粋で複雑な感情、レプリカが望む想いなど、特殊な視点から描かれる苦くて脆くて美しい物語『レプリカだって、恋をする。』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©榛名丼/KADOKAWA 電撃文庫刊 イラスト:raemz

kiji

[関連サイト]

『レプリカだって、恋をする。』特設サイト

電撃文庫公式サイト

 

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レプリカだって、恋をする。 (電撃文庫)

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