独占インタビュー「ラノベの素」 澤松那函先生『フェアリーメイド』
独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2025年1月25日にオーバーラップ文庫より『フェアリーメイド』が発売された澤松那函先生です。第11回オーバーラップ文庫大賞にて「金賞」を受賞し、満を持してデビューされます。人工的に作られた妖精「フェアリーメイド」の解体を生業とする「壊し屋」の青年と、余命わずかなフェアリーメイドの少女の物語を描いた本作。人工妖精「フェアリーメイド」へのこだわりや、「大切な存在との別れ」を描くことについてなど、様々にお話をお聞きしました。
【あらすじ】 人々の便利な生活のために生み出された擬似生命「人工妖精(フェアリーメイド)」。彼らは社会に不可欠な存在である一方、経年劣化によりごく稀に暴走し、人を害する危険性もあった。かつて人工妖精の暴走事故により両親を失った青年リュウジは、相棒であり初恋の人工妖精ティルトアと共に、 人工妖精を解体し暴走に対処する「壊し屋」として働いている。日々の依頼をこなしながら、近頃増加している、寿命を迎えていないはずの人工妖精が突如激しく暴走する原因不明の症状“アリシア・シンドローム”の調査を始めたリュウジとティルトア。真相に近づくにつれ、二人はやがて過去の因縁と逃れられない使命に向き合うこととなり――? |
――それでは自己紹介からお願いします。
澤松那函と申します。執筆歴は13年ほどになります。好きなものは第一に映画で、ジャンルとしては『ゴジラ』や『ガメラ』、『ウルトラマン』といった巨大な怪獣が登場する特撮作品が好きですね。他にも『007』やアメコミ作品のような派手なアクションが描かれる洋画もよく見ていました。昔からエンタメ全般は好きだったんですけど、中でも映画は、自分で作品を撮りたくて映画学校に入学したぐらい特別なものでした。映画以外ですとゲームも好きです。『メタルギア』シリーズはかなりやり込みましたし、『バイオハザードRE:4』もお気に入りで、今でもプレイしています。
――学校で映画制作を学ばれていたということですが、そこから小説を書く方向に進まれたきっかけについて教えてください。
最初は映画監督になって『ゴジラ』のような作品を自分でも撮りたいと思っていました。ただ、自主制作でそういった作品を撮ることは、予算的に厳しくて挫折してしまったんです。それに加えて、就活の時期がリーマンショックに重なってしまい、映画会社に就職することも難しくなっていたので、映画の道は諦めざるを得ませんでした。それでも自分の作品を作りたいと思い続け、2年ほど働きながら見つけたのが「小説を書く」という道でした。予算を気にせず、自分の世界を表現できるところに魅力を感じたんです。
――小説という形でご自身の世界を表現するようになった澤松先生は、どういった作品を書くようになったのでしょうか。
最初に書いたのは、6回限定で強力な魔法を使える主人公が活躍するファンタジー作品でした。それ以降もファンタジーを書くことが多かったです。
――怪獣映画や洋画などを好きな作品として挙げていただいたので、てっきり小説でもそういった作品を書かれることが多いのかと思っていました。
たしかに『ゴジラ』や『メタルギア』、『007』と聞くと、ファンタジーには結びつかないですよね(笑)。僕がファンタジーを書いていたのは、「小説家になろう」で読んだ『ラピスの心臓』の影響だと思います。読んだ当時は、まだ書籍化されていなかったのですが、本当に面白くて……。「プロじゃなくてもこんなに面白い物語を書けるのか」という衝撃を受けました。結果的に、この作品との出会いが小説を書き始める契機にもなったんです。『ラピスの心臓』はファンタジー作品でしたので、自然と自分でもファンタジーを書くようになっていきました。
――ありがとうございます。あらためまして、第11回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞おめでとうございます。受賞の連絡を受けた際の感想を教えてください。
連絡をいただいたのは、受賞発表の1週間ぐらい前でした。ゲームをしながら、「多分落選しているだろうな」みたいなことを家族と話していた時に、電話が鳴ったので急いで出たのを覚えています。受賞の連絡を受けた際は電話を握る手が震えていました。本当に嬉しかったです。
――小説を書き始めてから受賞まで約13年かかったわけですが、ここまで書き続けられた原動力は何だったのでしょうか。
ひとえに諦めの悪さだと思います。商業で作品を出したいという思いだけは、ずっと持ち続けてきました。とはいえ、心が折れそうになったことは何度もあります。『フェアリーメイド』を応募した際は、結果にかかわらず新人賞への応募はこれで最後にしようと思っていたぐらいでした。だからこそ受賞したときの喜びも大きかったです。
――最後の最後に報われたわけですね。ちなみに、『フェアリーメイド』の応募先としてオーバーラップ文庫大賞を選ばれた理由は何だったのでしょうか。
応募の決め手となったのは創作仲間からの助言でした。『フェアリーメイド』のひとつ前に書いた作品があったのですが、満足のいくクオリティではなくて、公募に出すかも迷っていたんです。そこで、創作仲間に相談したところ、「オーバーラップ文庫大賞なら一次選考落ちでも評価シートがもらえるし、送ってみたら?」と言われまして、第10回に応募することにしました。そしたら最終選考まで残ったんですよ。結果的に受賞はできなかったのですが、今度は「絶対にもう一回オーバーラップに送ったほうがいい。最終選考まで残ったのなら、編集さんもさすがにペンネームを憶えているから」と言われました。それで応募したのが『フェアリーメイド』になります。
――ありがとうございます。それでは第11回オーバーラップ文庫大賞「金賞」受賞作『フェアリーメイド』がどんな物語なのか教えてください。
物語は、人工的に作られた妖精「フェアリーメイド」が、人間の道具として使われている世界が舞台になっています。そこで、主人公のリュウジは余命がわずかなフェアリーメイドの少女・ティルトアと共に、経年劣化による暴走を防ぐため、フェアリーメイドを解体する「壊し屋」として働いています。本作ではふたりが「壊し屋」としてどのような活躍をするのか、そしてどのような形で別れの時を迎えるのかを描いていくことになります。
※自らの使命のため「壊し屋」として働くリュウジとティルトアを待ち受けるものとは……
――あわせて本作の着想についても教えてください。
実は本作のアイデアは2019年ぐらいにはあったんです。「小説家になろう」で連載しようと思っていたネタが原型になっていて、当時は妖精を作る女の子と余命が90日の妖精の物語を、90日間毎日更新しながら描いていく構想でした。ただそのタイミングで『100日後に死ぬワニ』が流行り始めたんですよね(笑)。これじゃネタ被りになっちゃうなと思い、一度お蔵入りにしました。そのアイデアを引っ張り出してきて、ストーリーや設定を大幅に変えたのが本作になります。
――なるほど、本作は没ネタから生まれた作品だったのですね。「人工的に作られた妖精」というアイデアは『フェアリーメイド』にも引き継がれているわけですが、このアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか。
当時『プラスティック・メモリーズ』や『Hybrid Child』などのアニメを見て、自分もこんな作品を書いてみたいと思っていたんです。加えて、『蟲師』や『大神』のような「自然」を取り扱った作品が好きだったので、どうにかして「自然」の要素を組み込めないかとも考えていました。そんな中で生まれたのが、「人工的に作られた妖精」というアイデアでした。
※精巧に作られたフェアリーメイドは、人間と見分けがつかないほど美しい
――人間と人間を模して造られた存在の関係性を描いた作品は数多くありますが、本作のフェアリーメイドは無機物ではなく、生き物である部分にこだわりを感じました。
ありがとうございます。フェアリーメイドは、植物など自然由来の素材を使って作られた身体に、妖精の魂であるマナを封じ込めることで作られています。フェアリーメイドの素材は、ケルト神話などを参考にしているのですが、このあたりの設定は創作仲間にも褒めていただくことが多かったです。他の作品との差別化をする意味でもこだわった箇所ではありましたし、違った読み味を感じていただけていたら嬉しいです。
――それでは続いて、本作に登場するキャラクターについても教えてください。
主人公のシシヤマ・リュウジは、向き合わなくてはいけないことに向き合うことができるキャラクターとして描きました。ティルトアと長い間過ごしてきた経験から、心の奥底では人間とフェアリーメイドが対等の関係を築けると思っているのですが、その一方で幼い頃に自分で作ったフェアリーメイドが起こした事件のせいで、それを信じ切れていない部分もあります。この二つの感情の間で苦しみながらも前に進むことができる、そんなキャラクターとなっています。
※過去にトラウマを抱えた「壊し屋」の青年リュウジ(キャラクターデザインより)
ティルトアは、リュウジが幼い頃から一緒にいるフェアリーメイドの女の子です。これまで創作仲間に「貴方の書くヒロインは可愛くない」と言われ続けてきたこともあって、彼女はライトノベルのヒロインらしさを押し出すことを意識しながら描きました。
※リュウジの相棒であるフェアリーメイドのティルトア(キャラクターデザインより)
エリザ・ウィンターはリュウジの「壊し屋」としての師匠にあたる人物です。僕が女性の師匠キャラが好きなこともあり、特に気に入っているキャラクターです。彼女の存在はリュウジにとって非常に大きくて、エリザによってビシバシと鍛えられたからこそ、リュウジは人の道を踏み外さずこれまで生きてこられたのだと考えています。
※リュウジを一人前の「壊し屋」に育て上げた師匠のエリザ(キャラクターデザインより)
――リュウジが「向き合わなくてはいけないこと」の一つにティルトアの存在もあるかと思います。受賞時には「大切な存在との別れ」をテーマに本作を書いたと語られていましたが、このテーマで書こうと思われた理由は何だったのでしょうか。
これまでの人生で何度か別れを経験したことはあるのですが、その時にちゃんと向き合えていたのかという反省や後悔が自分の中にありました。だからこそ、リュウジには僕が向き合えなかった「大切な存在との別れ」に向き合ってほしい、そんな願いを持ちながら本作は書いていました。
※リュウジのキャラクターには、澤松先生ご自身の経験や思いも大きく反映されているという
――続いてイラストについてもお聞きしたいのですが、本作では書籍化に際してふわチーズ先生がイラストを担当されました。キャラクターデザインを見た際の感想やお気に入りのイラストについて教えてください。
ティルトアのキャラクターデザインには完全に一目惚れでした。自分のイメージを超える形で描いていただいて、ふわチーズ先生には感謝しています。リュウジのビジュアルは、僕の頭の中にはっきりとしたイメージがあったので、依頼の際に細かく注文をさせていただいたんですけど、これも完全再現どころかアレンジを加えてさらに格好良くしていただいて、本当に凄いなと思いました。イラストについては、どれも素晴らしくて紹介するものを選べないのですが、強いて言えばティルトアの内部構造がむき出しになっている口絵は気に入っています。
※澤松先生が特にお気に入りだと語るイラスト
――著者として本作はどのような方がより楽しめるか、あるいはどのような方に読んでほしいですか。
本作は編集部内でも比較的女性の方にウケたという事をお聞きしましたので、男性の方はもちろん、女性の方にも楽しんでいただけるのかなと思っています。また、作中にはCQCやガンアクションなどの要素も登場しますので、バトルものが好きな方にも読んでいただけると嬉しいですね。
――今後の目標や野望などがあれば教えてください。
まずは『フェアリーメイド』を長く続けていきたいです。他にも登場させたいキャラクターがたくさんいますし、2巻以降もいろいろな構想があります。長く続けるためにも、多くの方に手に取っていただける作品にしたいなと考えています。野望ってなると……いまだにゴジラを作ることを諦めていないので、小説でもアニメでも映画でもいいので僕なりのゴジラ作品を作りたいですね(笑)。後はゲームも好きなので、『バイオハザード』などゲームのシナリオやノベライズなどをやらせていただく機会があったら嬉しいなと思っています。
――最後にインタビューを読んで本作に興味を持ってくださった方に一言お願いします。
心に傷を負った人間の青年と、余命わずかなフェアリーメイドの少女、ふたりはいつか必ず別れの時を迎えることになります。その結末をぜひ読者の方には見届けていただければと思います。
――本日はありがとうございました。
<了>
自らの使命、そしてやがて来る別れに向き合うことになる壊し屋の青年とフェアリーメイドの少女の物語を綴った澤松那函先生にお話をうかがいました。壊し屋として様々なフェアリーメイドとマスターの別れに立ち会ってきたリュウジとティルトアは、何を想い、どのような形で別れの時を迎えるのか、『フェアリーメイド』は必読です。
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集部・宮嵜/鈴木>
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