ライトノベルニュース総決算2025 総刊行点数と新作点数は共に微増となる 百合ジャンルは裾野を着実に広げた1年に
2025年のライトノベル市場、業界、界隈をザワつかせたニュースを思い浮かべた時、貴方は何を最初に思い浮かべるだろうか。筆者の中では、37年の歴史に幕を下ろしたライトノベル雑誌「ドラゴンマガジン」の休刊だろうか。2020年に休刊した「電撃文庫MAGAZINE」に続き、業界の顔とも言えるコンテンツがひとつの区切りを迎えた。一方でジャンルこそ異なるものの、昨年創刊された文芸誌「GOAT」は、上り調子でこの1年を終えようとしている。コンセプトや刊行スパン、価格など様々な挑戦と要素が詰まっての成功事例は、業界としてもあらゆる本造りに良い影響を与えてほしいと感じずにはいられない。ということで、今年もラノベニュースオンラインでは2025年のライトノベルニュース総決算と題して、2025年の出来事や注目のニュースをまとめてお届けする。
■年間刊行点数と新作刊行点数は共に微増 激戦の市場は変わらずの1年

まず2025年を振り返ると、ライトノベルの刊行点数は約2,630点(ラノベニュースオンラインアワードの主だった対象作品より抽出)となった。今年創刊した新レーベルは、主だって電子レーベルが主体となっていたため、ここで示す数値に影響はしていない。また、刊行点数は昨年と比較して微増に留まり、伸び率もやや鈍化の傾向がみられた。新作の刊行点数に至っては、昨年の約930作品から約950作品へと再び増加しており、刊行点数の微増分に寄与していると考えてよさそうである。シリーズ作品と新作の市場における比率は昨年とほぼ変わらず、1作品あたりの競争率も依然高い状況が続いている。業界としては市場規模の拡大を命題として、これからも様々な取り組みが必要な状況は変わっていない。

そして電子書籍市場の動向にも軽く触れておきたい。2024年の電子書籍市場全体は、推計6,700億円超となっており、成長率は鈍化しているものの、右肩上がりの状況は続いている。コミックが市場全体を大きく牽引する中、文字ものについては推計600億円を起点として、1年単位で増減を繰り返しているため、直近4年はほぼ横ばいと言って差し支えない。電子書籍市場全体の成長に、文字ものがうまくフィットしきれていない点にはもどかしさを感じつつ、電子市場における課題とは引き続き向き合っていく必要がありそうだ。
■青春ラブコメからのジャンル変遷は進みつつあった……が、「待った」をかける作品の登場も

昨年の記事でも触れた通り、現代を舞台にした青春ラブコメ作品の加熱ぶりは、本格的に一段落したと言ってもよさそうである。ピーク時の7冊に1冊が青春ラブコメだった頃と比較しても、ここ2年は10~11冊に1冊の割合に落ち着いている。劇的な変化というわけではないが、少しずつ制作サイドも「次のジャンル」に広く目を向け始めていることがうかがえる。

※ここで言う青春ラブコメは、現代を舞台、かつ異種族や異能なし(ちょっとした超能力は許容)の物語をラノベニュースオンライン編集長が独断と偏見でカウントしています
ところがどっこい、青春ラブコメからのムーブメント変遷に「待った」をかけるように『あそびのかんけい』が登場したことも印象的だった。『生徒会の一存』などでも知られるベテラン作家の一人、葵せきな先生の新作である。発売直後からじわじわと話題を呼び続ける中、「このライトノベルがすごい!2026」で文庫部門第1位を獲得し、名実の「名」を得た。そこから【先週の重版】記事を振り返っていただければわかるように、ものすごい勢いで名実の「実」も得つつある。よもやこのタイミングでこんな傑作が出現するのか、そういった面白さも感じつつ、今後のムーブメント変遷にどのような影響を与えることになるのか、2026年が非常に楽しみとなる出来事となった。間違いなく、2025年刊行作の読むべき1冊なので、未読の方はこの年末年始にぜひ読んでみてもらいたい。
■百合ジャンルの市場的成長、女性向けも活況は続く

ファンタジア文庫が掲げたプロジェクト「GirlsLine」は1周年を迎え、百合ジャンルの輪は着実に広がった1年だったのではなかろうか。『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』のアニメが好評だったことはもちろん、気付けば文庫レーベルを中心に、百合ジャンルに類する作品が新たに刊行されていることもその証左となり得る。大判レーベルでもファンタジー世界を舞台に、百合ジャンルに類する作品が多数登場するなど、裾野の拡大は間違いないだろう。とはいえ、青春ラブコメや異世界ファンタジーのように、市場全体で爆発が連鎖するタイプのジャンルではないため、さらなる作品群の拡張に向け、2026年はどういった戦略が用いられることになるのか、大変楽しみである。
そして女性向け作品は、ここ数年同様に活況が続いているという認識だ。特にコミカライズへの派生が例年以上に広がっているだけでなく、『悪食令嬢と狂血公爵』や『ずたぼろ令嬢は姉の元婚約者に溺愛される』などのアニメも放送され、来年以降へも弾みをつけたと言っていい。さらに2026年ではあるのだが、TOブックスから女性向けに特化した「Celicaノベルス」、ブシロードワークスからも女性読者を対象とした「スリーズノベル」の創刊がそれぞれ予定されている。この動きにあわせて「商機あり」と考える、新たなレーベルがさらに立ち上がる可能性も否定はできないだろう。昨今の女性向け作品は、男性向けに多い長期シリーズを狙う、或いは狙える作品というよりも、数冊で完結することを前提とした作品も非常に多く刊行されている。著者や出版社からすれば、作品・物語としての計算のしやすさがある。購買者からすれば、「数巻で完結する物語の手軽さ」があるのかもしれない。いずれにしても、昨今の女性向け作品の広がり方は、男性向け作品とはやや異なる道を選択しているように見える。
そして戦記ジャンルも、少しずつではあるが着実に間口を広げているように感じる。特に今年は『汝、暗君を愛せよ』の発売前重版、その後に「このライトノベルがすごい!2026」新作単行本・ノベルズ部門第1位獲得など、話題に事欠くことはなかった。作品群としても舞台を戦場に置くものから政治に置くもの、組織に置くものなど多様化も進んできている。2026年も戦記ジャンルの刊行が続けば、いよいよジャンル変遷に対して投じられた一石となるのかもしれないが、果たして……。
■イラストレーター・がおう氏の不祥事による甚大な影響が広がる
本件については決して気持ちのいい話ではないのであしからず。ただ、影響の度合いがあまりにも大きかったことを鑑み、取り上げる判断をした。不祥事の詳細は各自で調べていただければと思うのだが、この不祥事をきっかけに『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』はイラストレーターの交代を発表。『1/nのワトソン』もイラストレーターの交代に伴う刊行の延期が行われた。『追放者食堂へようこそ!』に至っては、アニメの放送とも重なり、クレジットから削除が行われるなど急ピッチで対応が行われることになるなど、様々な現場で混乱を招いた。同氏の活動の範囲はライトノベルにとどまらず、VTuberやゲーム業界でも甚大な影響を及ぼす結果となった。SNSでの告発をきっかけに非常に大きなニュースとなっただけでなく、業界全体に大きな衝撃を与え、極めて苦い出来事として記憶に刻まれることになった。
■『転生したらスライムだった件』本編が堂々の完結

今や国民的作品となりつつある『転生したらスライムだった件』の本編が完結した。小説から始まり、漫画、アニメと爆発的な人気を博す『転スラ』だが、小説書籍刊行11年目で一旦の幕を下ろすことになった。とはいえ、漫画やアニメはまだまだ続くこともあり、「完結した」という空気はいまいち薄いのも事実。それでも「小説家になろう」投稿時代から一世を風靡し、一時代を築いた人気作品の完結は、業界全体を見渡してみても非常に大きな出来事だったと言えるだろう。
■盛況すぎるがゆえのライトノベルのメディアミックスの行方

ライトノベルを原作としたアニメーションは今年も50本以上が放送されるなど、2023年から続くバブル状態が継続した1年となった。アニメーション全体の放送枠は年々拡張を続けており、制作サイドの一部からは悲鳴が聞こえてくるものの、来年もアニメ業界全体は活況となるのだろう。また、ライトノベル原作のアニメにも複数の道筋が生まれたことをより強く印象付ける1年だったように感じた。これまでは多くが「小説⇒アニメ化」を主流としていたわけだが、ここ数年で「小説の漫画⇒アニメ化」の流れはより顕著となってきている。これまでもそういった形でのメディア化はいくつも存在していたわけだが、「漫画ありき」の形はますます強まっていきそうだ。特に今年は、ニュースを取り扱う我々の中でも決定的な出来事があった。グラストNOVELS刊『転生エルフによる900年の悠久スローライフ』のアニメ化発表である。本作は小説版と漫画版でタイトルが変更されており、アニメ化の発表が漫画版のタイトルである『魔術を極めて旅に出た転生エルフ、持て余した寿命で生ける伝説となる』で行われた。そのこと自体が悪いというわけではなく、ライトノベルを軸としながらニュース記事を制作する我々ならではの衝撃だったのだ。そして「いよいよここまできたか」という思いを、筆者に明確に抱かせた出来事でもあった。そういった背景には、今や1日約1.5本に迫るライトノベルを原作としたコミカライズ新連載のスタートも、決して無関係ではない。そして来年か、それとも再来年か。ひょっとしたら、原作が不足することでコミカライズ自体が減少する可能性もある。それぐらいに現在の漫画化の勢いは激しいと言える状況なのである。アニメも漫画も盛況ゆえに、ライトノベルのメディアミックスの在り方は、どのように変容していくのか。それともまったく変容することなく続いていくのか。2026年も引き続き注目していきたいと思う。
■ラノベニュースオンラインとの10年、ラノオンアワード10周年とライトノベルミーティング

最後はやや身内話となるわけだが、何卒許してほしい。2025年はこの記事を執筆している筆者が、ラノベニュースオンラインを取り回すようになって10年を迎えた1年でもあった。これもひとえに、ラノベニュースオンラインの利用者、各出版社、作家、イラストレーター、編集者のみなさまをはじめ、多くの方の協力なくして、決して迎えることはできなかった。ラノベニュースオンラインとの10年については、noteのこちらの記事を読んでいただくとして、2025年はラノベニュースオンラインアワードが10年目を迎え、10年を振り返る特設サイトを開設することもできた。そしてもうひとつ、筆者なりのチャレンジだったのが、ライトノベル創作者向けのイベント「ライトノベルミーティング」の第1回を開催することだった。第2回開催の詳細は年明けに発表することになるわけだが、業界を盛り上げるためのひとつの起爆剤になってくれたらと考えている。こういった場を作ることが、創作者や編集者の熱量をさらに高め、より面白いライトノベルが世に解き放たれるきっかけになってくれたら……という、おこがましさ承知ではあるが、筆者なりのライトノベル業界に対する恩返しになったらという想いもある。この10年、正直本当に、言えること言えないこと含めて、いろんなことがあった。そしてこの10年で、決して分厚くはないだろうが、積み重ねてこられたものもあるだろう。それを様々な形に落とし込みながら、業界の発展に繋がるような活動を今後も続けていきたい次第である。ライトノベルは面白い。これは絶対に間違いのない事実なのだから。
上記のトピックスは、全体の総括や印象に強く残った出来事やニュースを主に紹介している。ほかにも「キミラノ」から刷新されたメディア「メクリメクル」や『りゅうおうのおしごと!』の完結、物語投稿サイト「TALES」のオープン、ファンタジア文庫から『大伝説の勇者の伝説』や『スレイヤーズすぴりっと。 『王子と王女とドラゴンと』』など懐かしの作品の続刊刊行、AIと創作の在り方など、気になるニュースやトピックスは非常に多かった。2025年、ラノベニュースオンラインではライトノベルのニュース記事を3,000本以上配信している。この1年、ほかにもどんな出来事や発表があったのか、気になる読者はぜひラノベニュースオンラインで2025年の出来事を振り返ってもらいたい。
ラノベニュースオンライン編集長・鈴木
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