独占インタビュー「ラノベの素」 紙城境介先生『シャーロック+アカデミー』

独占インタビュー「ラノベの素」。今回は2023年6月23日にMF文庫Jより『シャーロック+アカデミー』が発売された紙城境介先生です。ラノベの素には2019年末以来となる約3年半ぶりの登場となりました。当時から現在までの振り返りをはじめ、ご自身の考える「理想のミステリー・ライトノベルの答え」と標榜する新シリーズ『シャーロック+アカデミー』の誕生秘話に迫ります。執筆の根底にもかかわるミステリーとライトノベルの相性や探偵という存在について、ライトノベル×ミステリーのスタンダードを目指したいという作品の魅力についてなど、様々にお話をお聞きしました。

 

 

シャーロック+アカデミー

 

 

【あらすじ】

増加する凶悪犯罪に対抗し、探偵という職業の必要性が飛躍的に高まった現代。日本で唯一「国家探偵資格」を取得できる超難関校・真理峰探偵学園に今年、とある少年と少女が入学する。一人はかつて〈犯罪王〉と称された男の孫・不実崎未咲。もう一人は〈探偵王〉の養女・詩亜・E・ヘーゼルダイン。宿敵同士の末裔二人が、ここに邂逅したのだ! そして始まる学園の日々。早速入学式から模擬事件が発生!? しかも、一番先に正解したはずの詩亜よりなぜか不実崎の方が点数が高くて──「私は──あなたに挑戦します!」「後悔すんなよ、お姫様」 これは、真実を競い合う新たな学園黙示録。最高峰の知的興奮がここにある!

 

 

――大変ご無沙汰しております。前回のインタビューから約3年半ぶりの登場となります。あらためて、まずは近況からお聞かせいただけますでしょうか。

 

そうですね、いったい何から話せばいいのか……本当に直近の話をしたら、腱鞘炎で手が痛いんですけど(笑)。作家としての活動でいうと、『継母の連れ子が元カノだった』(角川スニーカー文庫刊)が始まって以降、こういう言い方はちょっとアレなんですけど、僕的にはボーナスモードだと思っていて、『連れカノ』が売れている間は他の作品がどれだけコケても生活的には大丈夫なんですよ。だからその間は挑戦し放題で、他の方向性を探るという動きをやっていた3年半でしたね。もともとラブコメ一本で行くつもりもゼロだったんですけど。

 

 

――挑戦を続けてきたこの3年半で、何か掴めたものはありましたか。

 

結論から言うとミステリーです。そもそも僕は『ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件』(ダッシュエックス文庫刊)というミステリーの作品でデビューしているわけなんですけど、その後にミステリーをやらなかった理由がいくつかあったんですよ。1つは単純に売れなかったから。もう1つは、最初の2作品が特に顕著なんですけど、僕自身が「どんでん返し」を組み入れる作風だったんです。でも書きながら思ってしまったんですよ。この作風をずっと続けるのは無理だなと。例えば一般文芸の『館シリーズ』(著:綾辻行人/講談社)みたいに、何年かに1回新作が出ますっていう刊行ペースならまだ可能だったかもしれません。ただ、ライトノベルの刊行ペースを加味すると、その作風で書き続けるのは非常に難しいということはずっと感じていました。なので一度『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?』(MF文庫J刊)で自らの作風をパージしつつ、別の方向性で執筆をしていたんですけど、『僕が答える君の謎解き』(星海社FICTIONS刊)を書いた結果、どうやらそんなにどんでん返しがなくてもミステリーは書けるらしいってことに気付かされたんです。特に第2巻はミステリー好きの方たちからの評価も良く、じゃあいけそうだっていう手応えを掴んで今を迎えているっていう感じですね。

 

 

――ほかにも大きな要素で言うと、2022年には『継母の連れ子が元カノだった』のアニメ化も経験されましたよね。そのあたりはいかがでしたか。

 

仕事でもなんでも元からそうなんですけど、終えてみての感想とかはあまり感じないタイプなんですよ。残るのはいつも反省だけで、これが楽しかった、あれが良かったというのはあまりないんですよね。後は言い方が少し難しいんですけど、アニメは小説と違って集団制作じゃないですか。その難しさはすごく感じました。特に『継母の連れ子が元カノだった』は、すべてをなんとなくで書いている唯一の作品だったこともあって、作品の面白さをうまく言語化することができず、スタッフさんにどう伝えたらいいのかとても難しかったです。それこそ下手なことを言ってしまうと原作者っていうことで変に尊重されてしまうし、でも僕はそれを望んでいないしで、関わり方がすごく難しかったですね。いずれにしても貴重な経験ではありました。

 

継母の連れ子が元カノだった キービジュアル

※2022年にアニメ化され大きな話題を呼んだ『連れカノ』

 

 

――ありがとうございます。それではあらためて新シリーズとなる『シャーロック+アカデミー』についてお話を聞いていきたいと思います。本作について紙城先生は「理想のミステリー・ライトノベルの答え」と標榜されていますよね。このあたりから具体的におうかがいしてもよろしいでしょうか。

 

「理想のミステリー・ライトノベルの答え」っていうのは、あくまで僕にとってというお話です。僕にとってミステリーの理想があって、それが『うみねこのなく頃に』(※同人サークル07th Expansionが2007年発売)のepisode5なんですよ。とりあえずこの話をする上で、ライトノベルとミステリーの相性といった話にも関わってくるので少しだけお話しようと思います。たとえばミステリー好きの人たちがミステリーに対してイメージするものって、密室や殺人、洋館、怪しい登場人物とか僕も思うわけなんですけど、果たしてそれはミステリーっていうジャンルのコアな部分なのだろうかという疑問があったんですよね。

 

 

――ミステリージャンルの作品を構成する上で、絶対的に必要な要素かどうかということですかね。

 

ちょっとゲームで例えるんですけど、『スプラトゥーン』(※任天堂より2015年~発売)っていうゲームのコアな部分は、塗って陣地を広げることじゃないですか。じゃああのストリート系の世界観って、ゲームのコアを形成しているのだろうかって考えた時に、自分は「それは違うだろう」って考えるんです。開発スタッフの中にストリート系の文化が好きな人がいたから構築されたものなんだろうなと。ミステリーもこれと一緒だと思っていて、ミステリーにおける洋館や密室も、ミステリーの発生文化圏がたまたまそっちだっただけで、それが今まで連綿と続いた結果伝統化したと思うんです。そしてそれらを好きな人たちが集まった。

 

 

――同好の士、或いはフェチズムとも言えそうですね。

 

そうですね、つまるところフェチズムだと思うんですよ。それをライトノベルでやろうと思った時に、そのフェチズムまで一緒に持ってくるべきなのかっていう問題がずっと僕の中にはありました。ライトノベルにはライトノベルのフェチズムがあるんだから、それにあわせたミステリーを作るべきなんじゃないかって、ずっと思ってたんですよ。じゃあどうすればいいのか。それを考えた時に、原点に立ち戻るというか、『うみねこのなく頃に』の推理バトルが脳裏を過ぎり、推理バトルをやりましょう、舞台は探偵学園しかありませんねっていう結論に至ったわけです。つまり、これは僕が書きたいものだよね、となったわけですね。

 

シャーロック+アカデミー

※名推理と名推理が激突する熱い推理バトルが大きな魅力となっている本作

 

 

――そうなると、気付きのあったという『僕が答える君の謎解き』の執筆と刊行も、本作へと繋がる大きなヒントというか、きっかけになったわけですね。

 

そうですね。そもそも『僕が答える君の謎解き』を書かなければ、「自分がロジックを書ける」ということに気付かなかったかもしれません。僕自身、そもそもこういうことができるとは思っていなかったんですよ。また、『裏染天馬シリーズ』(著:青崎有吾/創元推理文庫刊)っていう体育館の殺人から始まるミステリー作品があるんですけど、この作品は自分にとってミステリー作品の書き方の大きな指針となりました。そうして実際に執筆してみた結果、周囲にすごい褒められるっていう(笑)。僕は任天堂が好きなんですけど、以前社長をされていた岩田聡さんが「自分の労力の割に周りから褒められることがあったら、それがあなたの長所です」って言葉を残していて。なので、自分にとってミステリーは長所、得意なのではと感じたわけです。あともうひとつ、『僕が答える君の謎解き』を刊行した時、ミステリー好きの読者からは褒めてもらえたんですけど、その熱量と比較をすると、ライトノベルの読者からの熱量が思ったほどではなかったというのをちょっと感じていました。それでライトノベルの読者に対して、ミステリーの面白さのコアを布教するための土壌を作らないといけないのかもと考え、執筆への踏ん切りをつけるきっかけにもなりました。

 

 

――ものすごくシンプルな質問になるのですが、紙城先生はミステリーとライトノベルの相性は悪くないとお考えなんですよね。

 

はい、僕の結論としては、相性が悪いとは思っていないです。ただ、明確に相性の良くない部分が1つあって、それはライトノベルの締切の早さです(笑)。締切の早さに対して、ミステリーは制作に時間がかかるという、この相性だけは悪いと思ってます。恐らくですけど、2、3ヶ月でミステリー小説を1本書き上げるっていうのは、推理小説作家の方々からしたら、仰天の早さだと思いますよ。

 

 

――確かにそうかもしれませんね(笑)。

 

それとフェチズムの話に少しだけ戻りますが、ミステリーのフェチズムをそのままライトノベルに持ってきて、読者に押し付けるというのは、本来であれば有り得ないと思っています。ミステリーというジャンルが、フェチズムと不可分みたいになっている部分を個人的には感じていて、それがすれ違いを生んでいるというか、悲劇を生んでいるというか……。

 

 

――これはライトノベルに限らず、コンテンツやサービスを別の場所で展開する際、それぞれの地域や国、ジャンルに寄り添う、ローカライズは必須の作業ですからね。

 

それともうひとつ、ミステリーはキャラクター小説だからライトノベルと親和性が高いって言われることもあるんですけど、そのまま持ってくるだけなら「ミステリー小説を読めばいいのでは?」という話になってしまう。『裏染天馬シリーズ』だって、ライトノベルとして読んでもめちゃくちゃ面白いわけですよ。それなら、わざわざライトノベルという領域で刊行されているものを読む必要はないっていう発想になるわけで。領域が近いというならなおさら、そのまま持ってきても意味がないのかなって僕は思います。特に昨今はライト文芸もあるじゃないですか。ちょっとミステリー風味の作品を考えた時、だいたいの結論として「ライト文芸でやればいい」っていう話になりがちなところもある。それも僕らの思い込みのひとつなんだろうけど、なんでそんな思い込みがあるのかっていう原因と向き合わない限り、根本的な解決って難しいんだろうなとも思いますね。

 

 

――そういう意味でも本作は「ミステリー×ライトノベル」への一石を投じる作品になるのかもしれませんね。

 

一石を投じるというよりも、個人的な目的としてはスタンダードを作るということにあります。そのためには、他の誰にも書けない傑作である必要はないというか、そもそも傑作には再現性がないんですよね。仮に売れたとしても「あの作品は例外だから」で話が終わってしまう。僕としてはこういうやり方をすれば売れるんだっていう前例を作れたらいいなと思っています。作家としてデビューして以降、僕は他の誰かがそれをやってくれるんじゃないかってずっとずっと待っていたんですけど、どうやら僕以外に『うみねこのなく頃に』をやっている人間がいないのではと気付いてしまった(笑)。僕にとってミステリー・ライトノベルの答えは、『うみねこのなく頃に』の先にあるものであって、他にやってくれる人がいないのであれば、自分でやるしかないのかなって感じで、現在に至ってます。

 

 

――スタンダードというのは、ものすごく簡潔な言い方に置き換えるとテンプレートを作るというイメージが近いのでしょうか。

 

言われているようにテンプレを作れたら最強ではありますね。そういう意味では異世界ファンタジーもスタンダードなわけです。『灼眼のシャナ』(著:高橋弥七郎/電撃文庫刊)とか『とある魔術の禁書目録』(著:鎌池和馬/電撃文庫刊)、『涼宮ハルヒの憂鬱』(著:谷川流/角川スニーカー文庫)あたりを読んでライトノベルに入ってきた世代は、それ以前の『スレイヤーズ』(著:神坂一/ファンタジア文庫刊)なんかを知らなかったりもするわけですよ。そんなファンタジーの認知度が低い時代があっても、異世界転生というテンプレが現れた瞬間にブームになった。なので、ミステリーもスタンダードになり得るものが出てくれば、今いる読者の意識が変わる可能性はあるだろうなって思います。僕はいわゆるなろう系って、ゲーム文化から出てきたものだと考えていて、僕はミステリーもゲームの方が好きだったりするんですよ。最近は推理小説作家さんの中にも『逆転裁判』(カプコンより2001年~発売)の影響を受けて書きましたっていう人もちらほら出てきているっぽいんですけど、まだまだ少ない。なので、真似をするというわけではないんですけど、そういったものをライトノベルとして書くことができれば、読者の方に刺さる余地っていうのはあるよなって考えています。

 

 

――ありがとうございます。また、本作は探偵学園が舞台の物語となっていて、それもMF文庫Jからの刊行じゃないですか。ライトノベルの読者は『緋弾のアリア』を想起する方も少なくないんじゃないかなと感じますが、影響を受けた作品はありますか?

 

海外のゲーム開発者が「●●に影響を受けました」っていうのを大っぴらに言うのが好きなので僕も言うんですけど、『緋弾のアリア』(著:赤松中学/MF文庫J刊)というよりも、まずは探偵学園の先人として、『探偵学園Q』(原作:天樹征丸・作画:さとうふみや/講談社)っていう作品があるんですよね。でもその作品では学園の内部の話についてはそこまで掘り下げていないんですよ。なので、どちらかというと直接的に考え方の参考にしたのは、『ようこそ実力至上主義の教室へ』(著:衣笠彰梧/MF文庫J刊)や『魔法科高校の劣等生』(著:佐島勤/電撃文庫刊)のような特殊学園設定。学園の内部の描き方、特殊な学園が社会にとってどんな位置づけになっているのかだとか、そういうところを参考にしています。なので『緋弾のアリア』は武装した探偵の学園ですけど、共通点だけで見たら「探偵の学園」であるという、そのくらいなんですよ(笑)。むしろ方向性としては逆のことをやろうっていう感じでもありますね。

 

シャーロック+アカデミー

※ミステリーの面だけでなく探偵学園についても深掘りされていく

 

 

――逆のことというと、具体的にはどういった点が挙げられるでしょうか。

 

執筆時には『緋弾のアリア』も当然調べたんですけど、現代の特殊学園ものの設定として、埋め立て地にあるとか、メガフロートの上にあるとか、巨大な島の中にあるとか、社会と一定程度隔絶されていることが少なくないんですよね。ただ、探偵を書くにあたってそれはよくないなとも思っていて。なぜなら探偵だけがいても事件は起こらないし、探偵だけの空間には謎が落ちてこないので、絶対に東京のど真ん中に学園を作るべきだと考えていました。ただ、そうなると今度は探偵学園の存在自体がファンタジー過ぎるという問題が出てくるわけです。全体的にリアリティを求めるミステリーにおいて、探偵という存在は一番ファンタジー寄りの存在です。なので、探偵を集めるということは、ファンタジーをより集めるということに繋がり、結果として一層浮きまくるっていう。担当さんとも話したんですけど、カテゴリーとしては忍者学校と一緒だよねって(笑)。なので、その解決に関しては、『魔法科高校の劣等生』を参考にしました。1995年に歴史が分岐して、っていうアレです。探偵学園ではあるんですけど、特殊な学園という視点で見ていただいた方が、馴染んでもらえるんじゃないかなと思っています。

 

 

――学園の設定まわりは、お話を聞いてものすごく「なるほど」と感じました。そして本作では「読者への説明書」という、作中の推理要素に繋がる箇所を明示するという、面白い試みも大変印象的でした。

 

これはもうひとえに、みんな伏線なんて細かく覚えてないよねっていう話です(笑)。特に序盤、キャラクターのこともよくわからない段階で、伏線なのかどうかもわからない文章をすべて読まなきゃいけないという負担は、ものすごく重たいと感じてしまうんです。読み直すことで面白さを見つけられるという読み方も理解はできるんですけど、逆に2回読まなくちゃダメなのかって。それなら太字で注意すべき点をわかりやすく切り出してしまおうと考えました。僕の選択した試みとは少し違いますけど、過去には『星降り山荘の殺人』(著:倉知淳/講談社)という作品で、各章で描くことを最初に全部書くといった試みも行われていたりしましたし、ゲームの話にも少し戻りますが、『ダンガンロンパ』(※スパイク・チュンソフトより2010年~発売)などでは証拠品をリストにしていつでも見ることができるわけじゃないですか。ゲームではできているのに、なぜ小説ではできないのかと前から思っていたこともあって、それを今回やってみようと考えました。この仕掛けについては、僕自身がミステリーは真相がバレてもいいと思っているタイプだからなのかもしれません。あくまで個人的にですが、真相は解決編の直前にバレるくらいが丁度いいって考えていて、その延長線上でもあるのかなと思っています。

 

 

――私自身も決してミステリーを読み慣れているわけではないので、「ここに注目しておけばいいのか」と、明示されている今回の仕掛けは本当に面白い試みだと感じました。このアイデアは紙城先生が提案されたんですよね。

 

そうですね。僕から一方的に「やります」って伝えた気がします(笑)。『うみねこのなく頃に』にも「赤き真実」っていう設定があるんですよ。作中において赤い文字で記されたものは、証拠も証明の必要もなく絶対に真実ですっていう。イメージとしてはそれに近いですね。

 

 

――ありがとうございます。それではあらためて、本作に登場する探偵たち、キャラクターについても教えてください。

 

不実崎未咲は犯罪王の孫で、探偵学園へと入学します。ミステリーを読まない人の感性にちょっと寄せた、作中でも普通の感性を持っているキャラクターです。探偵学園が舞台なので、事件が起きると周囲はみんな嬉々として調査を始めるんですけど、不実崎は「なんでこいつらはこんな不謹慎なことができるの?」って感じてしまう。また、『逆転裁判』や『ダンガンロンパ』の主人公は推理小説の探偵像とは違い、七転八倒しながら真実へとじりじり近づいていくじゃないですか。不実崎もどちらかというとそっち寄りの主人公です。それでいて彼はミステリーの主人公というよりも、ちゃんとライトノベルの主人公でもあるんです。僕は常に主人公はヒーローであってほしいと思っています。作品を書くたびに毎回担当さんには言うんですよ。この作品の主人公は上条当麻ですって。そして毎回担当さんには首を傾げられるという(笑)。

 

不実崎未咲

※探偵学園へと入学した犯罪王の孫・不実崎未咲

 

詩亜・E・ヘーゼルダインは探偵王の義娘です。不実崎とは対照的な存在で、まさにTHE探偵。物心ついた頃から探偵で、推理することを当たり前だと思っている。知的好奇心で興奮する、いわゆるシャーロックホームズ的な探偵でありつつ、承認欲求というわかりやすいモチベーションを持っています。僕の場合はヒロインに苦労をさせがちというか、苦労の結果に性格がねじ曲がってしまったヒロインが多いのかなと思っていて……そういう意味では詩亜も例には漏れていないですね。個人的に素直にシンプルで健気といったヒロインがそこまで好みではないので、基本ヤバい奴であってほしいって思っちゃいます(笑)。

 

詩亜・E・ヘーゼルダイン

※探偵王の娘で驚異的な推理力を有する詩亜・E・ヘーゼルダイン

 

宇志内蜂花は推理をしない探偵キャラクターです。推理以外のところで活躍できる探偵を考えた時に、演技のうまいキャラクターがいいのではと。推理以外を得意とするキャラクターもいてしかるべきだよなと考えた結果、探偵キャラそのものに幅を持たす意味でも重要なキャラクターになったと思います。

 

宇志内蜂花

※他者を錯覚させる演技力を持つ女優探偵・宇志内蜂花

 

祭舘こよみは、探偵学園という舞台で物語を描く上で、一番重要なキャラクターだと個人的には考えています。つまるところ、世界観の中に日常の謎を含めるっていうことに繋がっています。探偵がたくさん登場する作品だと、『JDCシリーズ』がミステリー好きの中では大きな存在かなと思うんですけど、刊行されていたのが1990年代から2000年代ですよね。この頃になかったわけではないですが、日常の謎がそこまでポピュラーというわけでもなかったと思うんです。そこからライト文芸の登場によって、当時に比べたら広がっていると思っていて。そして今探偵学園を描くならば、日常の謎を解く探偵も必要だと考えました。祭舘こよみはその象徴的な存在でもあります。

 

祭舘こよみ

※日常の謎を得意とする祭舘こよみ

 

万条吹尾奈は知識をひけらかす系の探偵で、ちょっとメスガキ要素を取り入れた、ある意味で一番わかりやすいライトノベルとしての味付けをしたキャラクターです。探偵ってだいたい鼻につくんですけど、鼻につく感じを誇張したらこうだよねっていう、ミステリー・ライトノベルを象徴するキャラクターって感じですね(笑)。

 

万条吹尾奈

※幻影寮に住む二年生・万条吹尾奈

 

 

――名探偵を体現した探偵から、小さな日常の謎を紐解く探偵など、いろいろな視点を持つ様々な探偵像が学園に一堂に会す面白さも非常に楽しかったですね。

 

そこはもう『大乱闘スマッシュブラザーズ』(※任天堂より1999年~発売)や『スーパーロボット大戦』(※バンダイナムコエンターテインメントより1991年~発売)のような、コラボ感のイメージですよ。一方で、探偵という存在を現代社会に溶け込ませようと考えた結果、日常の謎の方が多くあるべきだとも感じています。いつもそこらへんで殺人事件が起こっているわけではないですからね。米花町じゃないんで(笑)。

 

 

――米花町は特殊な街なので(笑)。さて、これもかなり根本的な質問になるんですが、ミステリーにおいて探偵とはどういう位置づけなのか。先ほどファンタジーの要素というお話もあったと思うんですけど、探偵を描く意味や必要性はどんなことだと考えていますか。

 

探偵は答えを与える存在です。死んだ人間を生き返らせるわけでもないし、大抵の探偵は殺人を予告できるわけでもありません。それができるのは『探偵が早すぎる』(著:井上真偽/講談社タイガ)くらいですね(笑)。なんですが、『スティール・ボール・ラン』(著:荒木飛呂彦/集英社)の作中に「納得はすべてを優先する」という、すごくいい台詞が出てきます。まさにその言葉の通りで、探偵も周囲に納得を与えることで、関係した人たちを未来に向けて進ませてあげることができる、そういう役割の存在だと思うんです。今のご時世、インターネットでよくわからない人がよくわからないことを一生喋ってる社会じゃないですか。現実ですっきりと納得できることなんて少ないと思うし、それを体験できるという意味でも、ミステリーの探偵は重要で必要なんじゃないかなって思っています。自分ではうまく言えないけど、なんとなくこうじゃないかって思っていることを探偵がズバッと言ってくれることの気持ちよさはあると思うので。

 

 

――ちなみに紙城先生の思う理想の探偵像を教えてください。

 

単純に好きな探偵キャラクターで言うと、『うみねこのなく頃に』の古戸ヱリカですけど、お世辞にも理想とは言い難い(笑)。理想で言うと誰なんだろう……『逆転裁判』の成歩堂くんかもしれないです。最初から全部わかっていますよっていう探偵よりも、壁にがんがんぶつかって最終的に真実へと辿り着いているキャラクターが好きかなって思いますね。

 

 

――本作のイラストはしらび先生が担当されています。発表と同時にキャラクターデザインなども公開されました。あらためて印象などをお聞かせください。

 

まず、キャラクターがめちゃくちゃ多くてすいませんとしらびさんには謝りたい(笑)。あんなにたくさんのキャラ表を送ったのは本当に初めてで、第1巻に登場するキャラクターをはじめ、周辺キャラなどの兼ね合いもあるかなと思い、一応第1巻にはまだ出てきていないキャラ表も一緒に送ったら、それこそソーシャルゲームのような人数になってしまって……。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいながらもキャラを増やし続けています。しらびさんのイラストについては、絵に詳しくないので細かいことは言えないんですけど、普遍的な魅力を持っていて、多くの人に刺さるイラストだと感じています。ミステリーだから尖った人向け、という印象を払拭してくれる可愛さや格好良さを持っているイラストだと強く感じています。最初に発表された詩亜のイラストも、探偵という超全的な存在に垣間見える神秘性や、ちょっとしたポンコツな雰囲気が出ているなって気がしていて、すごくいいなって思いますね。

 

 

――著者の視点から本作の見どころや注目してもらいたい点を教えてください。

 

これは僕の個人的な話なんですけど、学生の頃に「そんなの屁理屈でしょ」って言われるのがすごく嫌でした。僕以外にも、理屈の突き詰めようとして、周りに「そこまで深く考えなくてもいいじゃん」って諭された経験を持っている人は多いと思います。ミステリーのいいところは、そんな風に深く考えることを肯定してくれるところだと思っています。普段の日常では何が正解なのかを究極的に突き詰める機会はほとんどなくて、なあなあに物事が決まっていくことが常で、そこに対して少しでもフラストレーションを感じたことがある人にとっては、面白く読んでいただけるんじゃないでしょうか。それと、本作の解決編はものすごく凝ったものになっていると思います。関係者全員を集めて「さて……」というお約束だけではなく、ミステリーと聞いて想像する解決編とは全然違うものが読めるんじゃないかなって。

 

シャーロック+アカデミー

※登場する探偵たちが描き出す真実を貴方も読み解けるか――

 

 

――今後の目標や野望について教えてください。

 

この作品を500万部くらい売る(笑)。『シャーロック+アカデミー』が売れるかどうかで、何か変化が起こるんじゃないかって思っているので、それ次第かなと。僕は常にキラーコンテンツを作りたいと思っていますし、今がその実行ターンだとも思っているので。その結果、ライトノベルの読者を増やしたいですね。

 

 

――それでは最後にファンのみなさんに向けて一言お願いします。

 

ミステリーを読んだことがない人でも読める作品ではありますが、推理には一切手加減を入れていません。ゲームは難しくあっても遊びにくくあってはいけないっていうのがあるんですけど、これは小説も一緒だと思っていて、手強くはあっても不親切であってはいけないと思っています。なので、本作は親切な難しいミステリーになっているはずです。ミステリーに対して、ビビらないで読んでくださいとは言いませんけど、ビビりながら読んでほしいです(笑)。だって『エルデンリング』をビビらないで遊ぶ人はいないでしょう。でも遊びやすいから売れるわけで。また、僕の作家生活は1期と2期があると思っていて、アニメ化もされた『連れカノ』あたりが2期になるわけですけど、ラブコメあたりから僕の作品を読んでくれている方に伝えたいこととして、すごく魅力的なキャラクターがたくさん出てくる作品にしました。半分くらいはラブコメでもあるので、ぜひ読んでくださいっていうのもありつつ、頭脳戦学園ものとしても読んでもらえたらなと思います。そしてデビュー後の1期から僕の作品を読んでくれている方へは、あの当時やりたかったことを今やりますって感じですね。当時幻の原稿となってしまった『ウィッチハント・カーテンコール』第2巻の原稿があるんですけど、その原稿がゴリゴリの推理バトルに寄せた原稿でした。あの頃やろうとしていたことを、もっと整えた形でやっていますので、ぜひ読んでいただけたらと思います。

 

 

――本日はありがとうございました。

 

 

<了>

 

 

「ミステリー×ライトノベル」の答えのひとつだという想いをもって探偵学園を舞台にしたミステリーを綴った紙城境介先生にお話をうかがいました。本文中の読者に優しい仕掛けはありながらも、難解な謎に様々な探偵たちと挑める本作。最後の最後まで熱い推理バトルから目が離せない『シャーロック+アカデミー』は必読です!

 

<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>

 

©紙城境介/KADOKAWA MF文庫J刊 イラスト:しらび

©紙城境介・KADOKAWA/連れカノ製作委員会

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『シャーロック+アカデミー』公式Twitter

MF文庫J公式サイト

 

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シャーロック+アカデミー Logic.1 犯罪王の孫、名探偵を論破する (MF文庫J)

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