【特集】TVアニメ『義妹生活』放送記念特別企画 三河ごーすと×天﨑滉平×中島由貴スペシャル鼎談 3年半の時を経てアニメ化の伏線を回収へ
MF文庫J発のTVアニメ『義妹生活』の放送開始を記念した特別企画として、原作者の三河ごーすと先生、浅村悠太役の天﨑滉平さん、綾瀬沙季役の中島由貴さんのお三方による鼎談をお届けします。2021年1月の書籍化を記念した鼎談より約3年半。かつての鼎談を締め括った合言葉「目指せアニメ化!」を見事実現した喜び、さらにアニメ化決定の裏話やYouTube版とアニメ版とで感じるキャラクターを演じる上での違いについてなど、様々にお話をお聞きしました。前回の鼎談を読んでいない方は、この機会にぜひそちらもチェック!
【イントロダクション】 高校生・浅村悠太は父・太一の再婚をきっかけに、同い年の少女・綾瀬沙季とその母・亜季子と一つ屋根の下で暮らしていくこととなる。互いに両親の不仲と離婚を経験しているがゆえに、男女関係に慎重な価値観の二人は、義理の兄妹として適切な距離感を保とうと約束する。「私はあなたに何も期待しないから、あなたも私に何も期待しないでほしいの」 考えを述べあい、すり合わせを重ねることで、互いを理解していく悠太と沙季。新たな生活に居心地の良さを感じはじめた時、二人の関係はゆっくりと、しかし確実に、変化をはじめて…………これは、いつか恋に至るかもしれない物語。“他人”が“家族”へ、そしてその先へ。少しずつ変わりゆく日々を映す、恋愛生活物語。 |
■鼎談参加者
三河ごーすと/天﨑滉平/中島由貴
――お三方の鼎談は約3年半ぶりとなるわけですが、当時の「目指せアニメ化!」の合言葉を見事実現されました。アニメの放送もスタートした『義妹生活』、まずは率直な感想をお聞かせください。
三河:前回の鼎談が本当に懐かしいですね。3年半前の記事と今回の記事が並んだら、みんな計算通りだと思うかもしれませんけど、まったくの偶然ですから。でも、計算通りって言った方が格好いいので、計算通りと言っておきましょう!(笑)。
天﨑:三河先生は計算通りでいいと思います。役者の天﨑としては、「やったー!!!!」っていう感情しかなくて(笑)。
中島:言ってよかったって感じですよね!
天﨑:『義妹生活』という作品に携わらせていただく時に、様々な形や媒体で、世の中のみなさんに作品を届けられたらとは思っていました。もちろんアニメ化も夢見ていたわけですけど、まさかここまで言った通りになるとは……(笑)。振り返りますけど、前回の鼎談の時点では何も決まってませんでしたよね?
三河:何も決まってなかったどころか、小説の第1巻が売れるかどうかもわからないタイミングでしたからね。
※2021年1月に発売された小説第1巻刊行時はまったく何も決まってはいなかった
天﨑:あまりにもとんとん拍子だったので、あの時既に決まっていたんじゃないかって錯覚しちゃいますね。
中島:確かに(笑)。
三河:書籍をみなさんに買っていただけた結果、無事ヒットに繋がったので、非常にありがたかったです。
中島:私もアニメになればいいなぁとは思っていましたけど、お二人と一緒で、まさかこんなにぽんぽん決まるとは思っていなかったです。アニメ化のお話を聞いた時も、『義妹生活』がとてもたくさんの方に愛してもらえているんだなって思いました。
――アニメ化のお話は、具体的にいつ頃から動き出したのでしょうか。
三河:正確には覚えてないんですけど、第3巻と第4巻の間くらいで、2021年の9月頃だったと思います。ただ、当時は企画としてのお話はいただいたものの、あっさり決まるわけがないと思いながら過ごしていましたね。
天﨑:小説の1巻が発売されてから9ヶ月くらいってことですよね。その短期間で3巻まで刊行されている三河先生もすごいですけど(笑)。
三河:筆は結構速い方だとは思います。よく本を出すタイミングで、「そんなに本を出して、忙しくないですか?」って言われることがあるんですけど、本が出版されるタイミングの仕事は、半年以上前に終わっていることが多いので、あまり関係なかったりもするんですよ。本が出たタイミングで忙しいわけではないという。
中島:えええええ、そうなんですね!
天﨑:アニメ化の話も、これってかなり早かったんですかね? 僕らもどのくらいでアニメ化が決定するのかっていう指標もよくわかってないんですよ。
中島:そうですよね。アニメ化をするにはこういった条件が必要だったりするとか、あるんですかね。
三河:僕の知る限りですけど、アニメ化は原作が売れていてもされないことはあるので、売れていれば絶対アニメ化されるかというと、そうでもなかったりします。もちろん売上があるに越したことはないですし、たとえそこまで売れていなくても、アニメ会社さんからやりたいって言ってもらえれば、アニメ化することはありますね。『義妹生活』の場合は、ビジネスとしてアニメをやりたいと思ってくれた人もいると思いますし、上野壮大監督が『義妹生活』でアニメをやりたいと思ってくれたから実現したと思ってます。
――アニメ化決定直後は、YouTube版での収録などでお三方は顔を合わせられることもあったかと思うのですが、どのようなお話をされましたか。
中島:おめでとうございます、みたいな(笑)。
天﨑:引き続きよろしくお願いします、みたいな(笑)。
三河:このあたりは結構事務的な感じでやりとりしてました(笑)。アニメ化が決まってから、収録が始まるまでも時間がかかりますし、アニメの収録が始まるまでは今まで通りって感じでしたね。
――あらためて『義妹生活』プロジェクトを振り返りたいのですが、本プロジェクトは三河先生の自腹から始まりました。そこから書籍化、そしてアニメ化にまで至りました。今現在はどんな思いを抱かれていますか。
三河:やっぱりアニメ化までいって、しかも良いものを作っていただいたと自分は思っているので、『義妹生活』プロジェクトとしては成功だと感じてます。とはいえ、身銭を切りながら書籍の印税でYouTubeの制作を続けているのですが、今に至るまで、僕の手元に入った個人的なお金は一銭もないんですよ(笑)。
天﨑&中島:ええええええええええ!!!
三河:もちろんYouTubeを運営している会社には入っていますし、自分の裁量でモノを作ったり、お給料を払ったりとかはやっているので、自分のお金と言えばお金なのかもしれないんですけど、プライベートの口座にはまったく入ってないです。
天﨑:じゃあ『義妹生活』ハウスはまだできてないと?
一同:――(笑)。
三河:なので、これからですかね。アニメがいい感じにあたって、夢のロイヤリティが生まれるようになってきたら、ちょっとずつ自分のところにも入ってくるようにしたいなとは思ってます。
天﨑:そのおかげで、僕らもYouTubeができているし、アニメ化もそうですよね。いろんな『義妹生活』のコンテンツが発信できていると思うとありがたいです!
中島:本当にありがとうございます!
三河:いえいえ、こちらこそ、ありがとうございますですよ。天﨑さんや中島さんのような凄い方に、そう言っていただけるだけでも、お金じゃないメリットがあると思っているので。
天﨑:ということを、三河先生のような方から言われると、我々としてもすごい嬉しいです。
三河:ありがとうございます(笑)。
※YouTubeでは様々なエピソードの動画があり、小説やアニメでは見られない二人をたくさん視聴できる
――そしてアニメの放送もスタートしました。それぞれSNSなどの反応はどのように見てらっしゃいますか。
中島:みなさん、めちゃめちゃ実況してくれているなっていう印象はあります。小説から、YouTubeから、そして今回のアニメから初めて『義妹生活』に触れたという方がいらっしゃって、それぞれの視点からいろいろと感じてくださっているなと思います。特に『義妹生活』を知ってくださっている方は、考察されている感じがするんですよ。逆に初めましての方は、「どういうこっちゃ?」みたいな(笑)。それぞれ、今起きていることを瞬時に、感じたことをそのままコメントしてくれているので、すごく面白いなって思いながら見ています。
天﨑:個人的には、アニメの第1話放送では、あまり見かけないタイプの感想が多いなって感じました。僕らは『義妹生活』に長くかかわっている人間として、物語やその魅力、アニメ化するにあたっての表現方法など、しっかりと考えて、理解する期間があったと思うんです。みなさんはそうじゃないにもかかわらず、1話を見た時に、そういった片鱗をこんなにも感じ取ってくれるんだっていう、感動がすごくあったんですよ。『義妹生活』の魅力の発信は、アニメの表現や演出を用いて、1話から投げかけていることを僕らは知っています。でも、見てくださるみなさんが、そこからどれだけ汲み取ってくれるかは、放送されるまで心配な部分でもありました。でも、いざ1話が放送されると、みなさんはその魅力をちゃんと掬い取って、考えてくださっている光景を見られて、本当に嬉しかったですね。
中島:「『義妹生活』はこういうアニメーションなんだ」っていうのを、感じ取ってもらえてすごくよかったなって思いました。みんなで作ってきた『義妹生活』という作品が、アニメとしてテレビに流れ、受け入れられた様子を感じることで、あらためてアニメが放送されたんだっていう実感も湧きましたよね。
天﨑:三河先生は1話放送後、Xで長文を投稿されてましたよね。あれ、めっちゃよかったです!(笑)。
※SNSでの長文感想は大きな話題を呼ぶことに……毎話投稿されている(1話の感想はこちら)
三河:ありがとうございます(笑)。ユーザーの反応で一番驚いたのは、あの長文の感想が意外と読まれて、拡散されたことなんですよ。みんなそんなに読むんだって(笑)。であれば、もっと推敲した文章を投稿すればよかったとも思いました。正直、そこまで読まれるとは思っていなかったので、結構感情のままに書いちゃったんですよ。なので、天﨑さんや中島さんも言ってくださったように、前のめりに、ちゃんと正座をしながら見てくれている人が意外と多いなと僕も感じました。最近は片手間でアニメを見ることが主流だって聞いていたので、日本のオタク、正座して見るんだって。
天﨑:1.5倍速で見てるだとか、オープニングは飛ばすとか、僕らとしてはちょっと心が痛む部分ではあるんですけどね。
三河:ですよね。だけど、みなさんの感想を見ていると、これは1.5倍速じゃなくて、0.8倍速くらいで見てくれているんじゃないかと感じちゃいましたね。
天﨑:僕もそれはすごく感じました。
三河:あと、ひとつ大きな予想外があったんですよ。僕は作品を作る時、お客さんの受け取り方や評価を、良い評価も悪い評価も、ある程度予想していて、だいたい思った通りの感想の割合になることが多いんです。でも『義妹生活』というタイトルで、色気のある作品を想像していた人がかなり多かったんですよね。
中島:確かにそうかも!
三河:自分の感覚では、色気のなさそうなタイトルに感じてたんですけど、みんなは色気がありそうって思いながら見てたんだって。だから1話の最後、お風呂シーンが悠太だけなんだ、みたいな(笑)。アニメのイントロダクションやPVでも、色気なさそう感は出ていたと思うんですけど、なんで期待されているんだろうっていうのが、よくわからなかったんですよ。
※視聴者の間でも話題の一端になったという悠太のお風呂シーン
天﨑:確かに……。でも義妹とか、妹萌えとか、やっぱりこの業界や文化において、みんな好きなものだし、王道みたいなところもあるので、そっち側に考えた視聴者は多かったのかもしれないですね。
三河:妹っていうひとつの単語で、1話にお風呂シーンがあるに違いないって思うんですかね(笑)。
天﨑:でも、その裏切りを喜んでいる人も多いなって印象でしたね。
三河:そこは本当によかったです。あと、感想を見ていてちょっと面白かったのが、他の作品ではなかなか見ない、スローペースで割り切った演出をしているので、勇気のいる構成だっていう声もありました。その声を見て、僕は、なんとなく作品そのものが沙季っぽいなと感じてしまって……。
中島:どういうことですか?
三河:自分はこれでいくって決めて、その魅力を高めることだけに注力して、他人にどう見られるかをそこまで気にせず突き進むみたいな感じじゃないですか。結果、受け入れてくれている視聴者さんが全員、悠太みたいにおおらかだなっていう。結果的にそういう見え方がして、個人的には面白いって感じちゃったんですよ。考えすぎかもしれないんですけど(笑)。
天﨑:いや、それはめちゃくちゃおもしろい話ですね。
――作品タイトルのイメージで言うと、そういった想像をする方の気持ちもわからなくはないんですよね。作品を解説するような長文タイトルと比較してもシンプルなタイトルですし、それだけ想像の幅や広さが個々人に委ねられている感じもしますね。
天﨑:そうですね。それにもしかしたら、親が再婚して一緒に住むことになるというシチュエーションから、そう感じてらっしゃる人も多いのかもしれないですよね。シンプルなタイトルだからこそ、シチュエーションから想像する方も多いのかもしれません。そして後から、『義妹生活』というタイトルに込められている意味を知って、「そういうことなんだ」って思っていくのかもしれないですよね。
三河:なるほど、勉強になります。つまり、鏡のようなものでもあって、お色気への期待感が強い人は、『義妹生活』というワードにお色気の要素を期待してしまうし、そうじゃない人は『義妹生活』にまた違うものを期待しているのかもしれないという(笑)。
一同:――(笑)。
――続いて、沙季と悠太、それぞれ演じるキャラクターについて、YouTubeとアニメとでは、どのような違いを感じたか教えていただきたいです。アニメの収録の最中にもYouTubeの収録はあったと思うのですが、演じ分けなど気を付けた点はありましたか。
中島:YouTube版に関しては、やっぱり面白さをどうにかして出さなくちゃって考えます。どう沙季らしくツッコんだり、ボケたりしようかなとか。でもアニメは小説のストーリーになるので、そういった要素はいらないと考えましたし、YouTube版とはキャラクター同士の距離感も違います。みんなでワイワイ楽しくやっていたYouTube版と違って、アニメでは関係性ゼロから始まるので、仲良しな部分は外さなくちゃいけないなとも思いました。アニメは全話の収録をさせていただいて、私自身も無意識に、沙季のようにいろいろ考えながら生きてきたんだなって知ることができましたし、心の動きをすごく拾っていただける作品だったので、その時々の感情をしっかりと載せつつ、YouTube版とは違う気持ちとやり方でやらせていただいていました。YouTube版を収録する時は「帰ってきたな」と思いながら、アニメを収録する時は「切り替えなくちゃ」ってやっていたので、演じ分けですごく悩むっていうのはなかったですね。
※アニメの沙季を演じる上で、悩むことはなかったという中島さん
三河:感覚としては別のキャラクターを演じるような感じなんですか?
中島:キャラクターは一緒ですけど、感覚としてはそれに近いかもしれないです。沙季自体がYouTube版ではわかりやすいキャラクターで、アニメではわかりにくいキャラクターだと思うんです。なので、まったく別のキャラではないんですけど、別のキャラクターとも言えなくもないという、ちょっと表現しづらい感じではあります(笑)。
三河:確かにYouTube版の沙季は、台詞と感情が直結していることが多いですよね。呆れてる時は呆れてるし、怒ってる時は怒ってる。
中島:そうなんですよね。
※YouTube版ではわかりやすいキャラクターになっている沙季
三河:天﨑さんはいかがですか。
天﨑:YouTube版で小説準拠の悠太や沙季のお話を演じる機会が途中から出てきたじゃないですか。その時に、演じる難しさをすごく感じたんです。YouTubeのオープニングに入っている「陰キャ男子の義兄とドライな義妹、義妹生活」っていうフレーズの、「陰キャ男子の義兄」の悠太像をうまく自分に落とし込めなくて。自分に至らなかったところもたくさんあったんですけど、とにかくクールにしなくちゃっていうイメージがあったんです。でもクールとするには、悠太はいろんなことを考えていますし、そのギャップをうまく消化できず、難しさを感じていました。でもアニメになって、小説とも向き合って、悠太とも向き合って、アニメの台本と向き合って、ズレていたキャラクター像が少し掴めたんです。その時に、人間としての悠太を捉え切れていなかったことに気付かされました。アニメのタイミングで、自分以外にもディレクションをしてくださる方々からいただける情報や空気を取り入れて、すごく演じやすくなったんです。だから……逆に今度はYouTube版が演じにくくなったのかなって(笑)。
※アニメにおいて悠太というキャラクターを再認識することになったという天﨑さん
三河:YouTube版は、良い意味でキャラクターが崩壊してますからね(笑)。
天﨑:実はYouTube版からアニメ化を経て、そこからYouTube版の悠太を演じるにあたっては、ちょっとアニメのエッセンスを取り入れているんですよ。なのでYouTubeを見た方がアニメを見た時に、「全然違う」とはなりにくい、ちょっとしたグラデーションを意識しているので、YouTube版がアニメの影響を受けるようになったかなって感じています。
三河:確かに、最近の動画はそういったエッセンスが入ってきてるかもしれませんね。台本も小説に寄せたものを作っていきましょうという話もあり、境界はかなり曖昧になってきていると思います。でもYouTube版の悠太は、やっぱり賑やかし役が多いですからね(笑)。
天﨑:あらためて、どちらも演じていて楽しいです(笑)。
――キャラクターはもちろんですが、ストーリーを含めてアニメとYouTube版との違いについてお話する機会はあったりしましたか。
天﨑:アフレコ現場でも、YouTube版からの続投組は、違いについての話は結構しましたよね。
中島:そうですね。
天﨑:奈良坂真綾役の鈴木愛唯さんとも、真綾の演じ方はだいぶ変わるよね、というお話はしました。逆に新しいキャストの方や、毎話出てくださるキャストの方には、『義妹生活』の成り立ちについて、どういう道筋を辿ってアニメ化に至ったのかという話を結構させていただきました。
※奈良坂真綾もまた、YouTube版とアニメとでは演じ方が違うという話は続投組内でしていたという
中島:YouTube版の『義妹生活』はこんな感じの作品です、っていうお話はたくさんしました。
天﨑:アニメに何話から参加しますといったキャストの方も、事前に『義妹生活』を調べてこられるんですよ。そうするとYouTube版が出てきて、その動画を見てこられて、「こういう作品なんだ」と。でも台本を受け取るとみなさん、「あれ?」ってなる(笑)。そういった方々に説明する役割が続投組にはあったと思います。
――前回の鼎談では、お二人とも小説を読んで、悠太や沙季のことを親の目線で見ていたというお話もありました。アニメでキャラクターを演じるにあたって、目線の変化は生まれましたか。
天﨑:小説を読んでいる時とはちょっと違っていて、演じる上で親の目線はなくなっていたかもしれないです。俯瞰で見てきたものを、今度は演じなくちゃいけないわけで。悠太自身はもちろん、太一さんや亜季子さん、そういった相手のことを考える上で、悠太のフィルターを通して考える必要がありましたから。
中島:私もYouTube版や小説の時は、親目線のような感じで沙季を見ていましたけど、アニメではストーリー的にも親ではなく、沙季と同じ目線に立たなきゃいけないと感じていました。その代わりというわけではないんですけど、音響監督さんをはじめ、周囲の方が親みたいな感じだったんですよ(笑)。
天﨑:確かに、そうかも!(笑)。
中島:それこそ休憩中やテストが始まる前に「悠太はこんなこと言っちゃダメだよ」とか、みなさん言ってましたよね。私たちからしたら、親が周囲にいたので、私たち自身が親の目線にならなくて済んだというのもあったかもしれません。
※天﨑さんと中島さんの代わりに周囲の関係者が親目線で二人の姿を見届けていた……のかもしれない
――アニメでは会話のスピード、行間を含めて、非常にゆっくりとしたイメージを受けました。演じる上ではどのように感じながら、そして考えながら演じられていましたか。
中島:アニメはすごくゆったりと作ってくださっていて、逆に感情を乗せやすかったです。ポンポンと感情を表現しなくちゃいけないんじゃなく、沙季と一緒に、ちゃんと落ち込んで、でも頑張る、やっぱり無理かも……といった心の機微を、きちんと表現させてもらえました。逆にYouTubeは自分のペースで収録させていただくことが多いので、アニメとはスピード感も含めて違うものになっている気がします。
天﨑:これは中島さんがおっしゃってくださった通りで、アニメの『義妹生活』には行間があるんですよ。多くのアニメでは、テンポよくシーンが切り替わっていくので、逆に行間は埋めなくちゃいけない。その行間を埋めて、なおかつキャラクターの気持ちや感情を理解し、瞬時に切り替えていかなくちゃいけなかったりするんです。でも『義妹生活』では、みなさんのお芝居も、映し出される絵も、自分の気持ちが自然と切り替わるタイミングで、映像とセリフが動いていくんです。そういった時間が作品の中にしっかりと作られていて、頭の中で「次の悠太の気持ちはこれ、その次はこれ」といった切り替えをしなくてもよかったんですよね。
三河:めちゃくちゃ面白いですね。
天﨑:これを象徴するものとして、1話のカット数が驚きの数なんですよ。Cパートまであって、155カットですよ。
三河:だいぶ少ないですよね。一般的なアニメのカット数ってどれくらいでしたっけ?
天﨑:平均しても200カットよりは全然多いと思いますし、本当に多い作品であれば1話400カットってこともあります。そう考えると、同じ尺の中、これだけ少ないカットでストーリーが進んでいるので、明らかに見え方も変わるわけです。そして台本の中にはト書きっていう、「こういうシーンです」といった、説明兼指示書のようなものがあるんですけど、台詞よりもト書きの方が長いっていうシーンも多いんですよね。
中島:めっちゃ詳しく書いてくれてますよね(笑)。
天﨑:そうなんですよ。つまり、ひとつのカットの中でいろんなことが起きているという意味でもあるんです。上野監督が「『義妹生活』は映像がお芝居をしている」っていうことをおっしゃられていたんですけど、まさにその通りだと思って。アニメの1話で悠太がバイトから帰ってくるシーンに、ト書きでは「いつも通り帰って靴を置こうとしたら、亜季子さんと沙季の靴があって……」と書かれていました。つまり、いつもと違う状況になっているということなんです。悠太は動いているんですけど、そこは1カットなんです。そのひとつのシーンで、それだけのことを表現していると考えると、当然時間はかかるだろうなと。1話でやろうとしたら、そりゃ155カットになるだろうって(笑)。
三河:長いカットの中で、台詞は息遣いがひとつだけ、みたいなシーンも結構ありますよね。
天﨑:台詞は書かれていないですけど、ト書きはすごく長いみたいなシーンも多いですからね。僕の好きなシーンに、悠太がバイトから自転車を押しながら帰宅するシーンがあって、影と音だけで描写されているんです。そのタイヤの回る影が、悠太が考え事をしているっていう、時間と思考の流れを表現している気がして、すごく印象に残っていたりします。ただリアルに描いているだけではなく、演出もちゃんと入っている。そういうシーンが『義妹生活』には多いんじゃないかって気がしてます。
※天﨑さんがお気に入りだという第1話の悠太の帰宅シーン
三河:アニメでは小説だと書いていないことが結構多く描写されていたりするんですよ。天﨑さんの言われたシーンも、書かれていてもせいぜい一文で、細かく文章にはしていないはずです。そして小説は悠太の一人称だったりするので、悠太の思考は逐一文字になっていますが、アニメでは敢えてそうしていません。『義妹生活』を映像にして、かつ読み心地を損ねないための、一番適切な方法だと感じました。悠太の思考をモノローグとして全部喋らせてしまったら、原作通りにはなるかもしれないけれど、原作通りの読み心地にはならないと思うんです。台詞も小説版からは結構切り落としていますし、シーンの取捨選択も行われています。長い尺でスローテンポに風景を映したり、動作を入れたりすることで、結果として読み心地が一緒になるっていうのは、やっていることは全然違うのに、媒体が違うからこそ、結果として一緒になるっていう面白さもすごく感じました。
天﨑:そういったお話は、上野監督とすり合わせをやられていたんですか。
三河:そうですね。そもそもの話なんですが、自分のアニメ化のスタンスとして、アニメはアニメ監督の作品だという認識の仕方をしています。原作を守ることよりも、ご自分の作品だと思って作ってもらいたいという感覚が強いんです。なので、相談や確認をいただければお答えはしますし、できる限りの協力はしようと思いますけど、好きに作っていいですよっていう感じでお話はしていました。最初に上野監督とシリーズ構成の広田光毅さんから、こういう風に作っていきたいですっていう構成書をいただいて、それを読んでまったく問題を感じなかった。逆にこれならお任せしてしまった方がいいと思いました。アニメではこれからだと思うんですけど、決定的に原作にはないものも入ってきます。上野監督とやり取りをして、その考えを聞いて、僕の中で「僕が書き忘れていただけだったんだな」って思わせられた。なので、原作で書き忘れたことがアニメになっている、そんな感じで見ています。
天﨑:三河先生にそれを言わしめる上野監督が凄いですね……。
三河:本当に『義妹生活』の根っこのところから掬い取ってもらっていると思います。わかりやすい部分で言うと……オープニングムービーで、悠太と沙季が子供の姿で描かれる時間が長いと思いませんか?
中島:確かに小さい頃の二人がたくさん描かれていますよね。
三河:サビがほとんど子供の姿なんですよ。あれも原作ではまったく描いていません。でも、今の悠太と沙季を描くにあたって、子供の頃の姿を描くのは、とても大事なことだと思ったんです。特に沙季ですね。彼女は大人びていて、クールで美人みたいな感じなんですけど、子供らしさというか、ちょっとしたところに覗くあどけなさが、たまに表に出てくるじゃないですか。それこそが沙季の魅力なんだって、アニメを見て自分が気づかされました。ほかにも原作にはないカバのぬいぐるみを見るだけで、僕は涙腺が緩むようになっちゃったんですよ。なので、沙季が持っているカバのぬいぐるみのことをみんな見てあげてください、っていうことを伝えておきます。とにかく、上野監督の作品の掘り下げ方が、本当にすごくて、そして面白いなって感じました。
※原作では描かれていない悠太と沙季の子供の姿がたくさん描かれる三河先生イチオシのオープニング映像
――それではあらためて、これからのTVアニメ『義妹生活』の見どころについて教えてください。
天﨑:1話から3話まで見てくださった方々は、この作品の魅力や表現したいことを、おそらく理解し始めてくださっているのかなと思います。もしかしたら、何度も見返してくれているんじゃないかなと。1度見た時と2度見た時の感想もかなり変化するアニメだと思っていて、1度目で気付かなかったところに2度目で気付いたりすることもあると思います。アニメになったことで生まれている魅力は、このまま最終話まで続いていくので、ぜひ期待してほしいなと思います。みなさんが感じるままにこの作品を受け止めてもらえれば、それが正解なので、4話以降も視聴していただけたら嬉しいです。そしてぜひハッシュタグなどを付けて、感想をつぶやいてください。それがかかわっている人たちの目に触れて、我々の日々の糧にもなるので、発信していただけたら嬉しいなと思います。
中島:4話以降、沙季ちゃん的にも、悠太くん的にも見所があります。沙季と悠太のそれぞれの視点で出会うキャラクターがたくさんいて、そのキャラクターたちとかかわることによって、二人の想いだったり、成長だったりを、最終話まで見ることができます。青春というか、高校生ならではの不器用さを感じ取ってもらいながら、二人の想いが交わる瞬間まで楽しみにしていただけたらと思います。ながら見ではなく、じっくり食い入るように見ていただけたら嬉しいですね。沙季ちゃんの日記パートもぜひ!
三河:日記パートは外せないですね。3話でも日記パートがあったと思うんですけど、今後の日記パートはもっとヤバいので。
中島:はい、本当に楽しみにしていてください!
三河:僕は白箱という形で全話見ているんですけど、情緒が破壊される9話が凄かったので、ぜひ9話を見てほしいなと思いつつ、もちろん12話も見てもらいたいです。9話は、お二人の演技もすごいものがあって、一番感情のうねる場所でもあるので。天﨑さん……悠太の……ダメだ、これネタバレになる!(笑)。
天﨑:うわっ、気になる!レコーダー止めてもらって三河先生の話を聞きたい!(笑)。
――そして小説の最新11巻も発売となりました。あらためて見どころについて教えてください。
三河:アニメ視聴者の方も読んでいるかもなので、ネタバレに配慮して最低限の情報に留めておきますが、2回目の学園祭があります。1回目の学園祭とは全然違う描き方をしていて、この1年間で悠太と沙季の関係性が、いかに変化したのかがわかるようになっています。そして沙季ですね。当初から苦手だと言っていたとある行為があるんですけど、そこでも大きな変化があったりします。沙季の変化、そして悠太の変化。二人の関係がかなり変わる1冊になっているので、原作を追いかけてくれている方にはぜひ手に取ってほしいなと思います。
※悠太と沙季の関係性は2回目の学園祭を迎えてどう変化するのか注目してほしい
――それでは最後にファンのみなさんに向けて一言ずつお願いします。
三河:アニメ版、小説版、コミカライズ版、YouTube版とありますが、アニメは本当に見ていると心が思春期になっていく作品ですので、そこにどっぷりとハマっていただきたいです。そのうえで、キャラクターたちが好きになって、もっともっとこのキャラクターたちが生きているところを見たいという方は、YouTubeの方に来ていただけると、幸せな時間が待っています。辛いことが何もない、幸せな場所になっていますので、ぜひ遊びにきてください。
天﨑:今の三河先生の話が本当にそうだなと思っていて、作品を好きになればなるほど、登場人物のことが大好きになっていくし、彼らが生きていく姿を少しでも摂取したいっていう気持ちになると思います。なので、あらゆる媒体でみなさんが、『義妹生活』を読んだり見たり、感じていただける機会と場所がたくさん生まれればと思っています。みなさんの応援のお力添えがあれば、それも叶っていくと思っていますので、引き続き応援をしていただければ嬉しいです。
中島:お二人が全部言われているので、もう話すことが何もないです(笑)。本当にYouTube、アニメ、小説、漫画と、たくさん読んだり見たりできるものがあるので、全部を味わっていただけたらと思います。そして『義妹生活』を知っている人たちとお話をしてもらいつつ、気になっている人がいれば、ぜひ布教していただけたら嬉しいです。これからも『義妹生活』をよろしくお願いします!
――ありがとうございました。3回目の鼎談がまた違った形で実現できることを楽しみにしております。
<了>
YouTubeからの書籍化、そしてアニメ化を果たした『義妹生活』について、三河ごーすと先生、天﨑滉平さん、中島由貴さんのお三方にお話をうかがいました。異なる表現方法でありながら、小説とアニメとで同じ読み心地を得られるという興味深さ、そして小説やアニメとは違った形で生きる悠太や沙季達を視聴できるYouTube版。そのすべてを楽しみながら、アニメで描かれる悠太や沙季の行く末を、ぜひ見届けましょう。TVアニメ『義妹生活』は毎週木曜夜に好評放送中。原作小説もMF文庫Jより第11巻まで発売中。
<取材・文:ラノベニュースオンライン編集長・鈴木>
©三河ごーすと・Hiten/KADOKAWA/義妹生活製作委員会
©三河ごーすと/KADOKAWA MF文庫J刊 イラスト:Hiten
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