【レポート】LINEノベル第3回「あたらしい出版のカタチ」座談会 スペシャルゲストに円居挽氏&相沢沙呼氏も登壇

2019年6月19日(水)にLINE株式会社大崎オフィスにて開催された『LINEノベルpresents第3回「あたらしい出版のカタチ」座談会』の模様をお届けする。「LINEノベル」は今年4月に発表された小説プラットフォームで、既存の出版社の枠組みを越え、新たな才能の共有・発掘を行う「あたらしい出版のカタチ」という取り組みを行う場として、大きな注目を集めている。第3回となる今回のイベントではスペシャルゲストとして、共にミステリー作家として知られる円居挽氏相沢沙呼氏を招き、二人のデビュー環境から小説家に至るまで様々な話題に言及する座談会となった。

【座談会出演】

円居挽(小説家)

相沢沙呼(小説家)

三木一馬(ストレートエッジ代表取締役・LINEノベル統括編集長)

高橋裕介(編集者・新潮文庫nex編集長)

森啓(LINE執行役員・LINEノベル事業プロデューサー)

スペシャルゲストの二人は共に1983年生まれ。デビュー年も2009年、ミステリー作家として知られているなど共通点も多い中、今回初めて顔を合わせた。円居挽氏は講談社BOX刊『丸太町ルヴォワール』で作家デビュー。直近では今年5月に『FGOミステリー 翻る虚月館の告解 虚月館殺人事件』、『FGOミステリー 惑う鳴鳳荘の考察 鳴鳳荘殺人事件』の2冊を同時刊行している。相沢沙呼氏は第19回鮎川哲也賞を受賞し、『午前零時のサンドリヨン』で作家デビュー。2015年にはMF文庫J刊『緑陽のクエスタ・リリカ』なども手掛け、直近では講談社タイガ刊『小説の神様』の実写映画化が決定している。

新潮文庫nex編集長の高橋裕介氏は「今日の目標はお二人が友達になること」として、かつて両名の担当編集者でもあった経験を活かしながら司会を担当、座談会をスタートさせた。

●ライトノベル作家を目指すところから執筆活動を始めた二人

相沢沙呼氏は第19回鮎川哲也賞という本格ミステリーを主とした賞からデビューをしたものの、昔から本格ミステリーでデビューしようとは思っていなかったことに触れた。小説賞への挑戦は15、6歳の頃から始めたとのことで、多数のライトノベル新人賞へ応募。しかし、結果は振るわず自身の方向性に悩んでいた時期も長かったと告白した。自身の物語スタイルとして派手さをウリにするものではなく、ちょっとミステリーっぽい雰囲気の作品を書くことが多かったという。そこで、少し路線を変更してミステリーっぽい新人賞に投稿してみようと思ったのが鮎川哲也賞応募のきっかけとなった。相沢沙呼氏は「鮎川哲也賞って【ちょっとミステリー】って感じじゃなくて、ガチですよね。何を血迷って投稿しようと思ったのか」と笑いながら当時を振り返るシーンも見られた。また、同賞の審査員を務めていた北村薫氏の名前を挙げ、「好きな作家さんに自分の書いた小説を読んでもらえたらと思った」、と同氏の存在も応募理由の大きなきっかけになったという。相沢沙呼は投稿の下積み歴も長く、25歳のデビューまで約10年の期間を数える。ライトノベルへの応募が長かった一方、ミステリーでは鮎川哲也賞に初投稿で一発受賞したこともあり、賞との相性や巡り合わせの重要性にも触れていた。

新人賞や公募の審査員については、スペシャルゲストの両名から「ライトノベルの新人賞では選考委員の顔はどの程度見られていたと思うか」という疑問も投げかけられた。三木一馬氏は「選考委員を意識した作品はほとんどなかったと思う」と在籍当時の電撃大賞を振り返りつつ、「レーベルの人気作品を模倣した作品が多く、『誰が』よりも『レーベルで人気の作品は何か』がより見られていた印象」と語った。

続いて、円居挽氏は京大推理小説研究会出身で、デビューは受賞を経てのものではなかったとのこと。高校2年生の頃からライトノベルの新人賞に送っていたものの、すべて一次選考落ち。投稿はずっと続けていた反面「手応えがなさすぎて余計にどうすればいいのかわからなくなっていった」と当時の苦しい心境を語った。契機が訪れたのは講談社BOXが開催していた賞への応募だったという。受賞こそしなかったものの、自身の作品を拾ってくれた編集者の存在を明かした。長らく一次選考落ちが続いていたため、編集者に見出してもらった喜びはひとしおだったという。デビュー作となる『丸太町ルヴォワール』の原型を1年の間に30回近く改稿して作家デビューを果たすことになるわけだが、ゲスト陣からは30回を超える改稿について「編集者さんがめちゃくちゃキャッチボールしてくれたんですね」と、同氏を拾い上げた熱心な編集者との巡り合わせについても触れられた。

●プロットから紐解く物語制作について

続いては二人の実際のプロットを見ながら、物語をどのように考えているのか、その小説感に触れていった。円居挽氏は『シャーロック・ノート』の原型となったプロットを、相沢沙呼氏は『スキュラ&カリュブディス』の原型となったプロットをもとに当時を振り返った。

円居挽氏は「何が、どんなものが物語に繋がるかわからない」と、高橋裕介氏との打ち合わせ「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」の話題で意気投合。その結果、『シャーロック・ノート』の原型が誕生したことについて語った。同作の話題で盛り上がる中で「こういう小説をやりましょう」という話になったという。そこから生まれた企画が『シャーロック・ノート』だった。

企画を進めていく上では「ジャイアントロボ&学園ものをやろう」という提案があり、既存の名探偵をモデルにキャラクターを出していくという型は決まっていたという。決めた型に対して自身のアイデアをあてこみ、プロットを仕上げていったと明かした。また当時の反省点にも触れ「設定ありき、規約ありきだったので学園ものとしてどうするのか煮詰めないではじめたことはよくなかった」と振り返るシーンもあった。

一方の相沢沙呼氏は「当時のことはあまり覚えてない」としつつ、プロットの書き方に言及した。三木一馬氏も「必要な事項が全部埋まっている礼儀正しいプロット」と同氏のプロットを称賛。【舞台/キャラクター/キーワード/あらすじ】という記載の順序についても意味があるとして、「相手に物語を伝えようとするなら自然とこうなるんじゃないか」と相沢沙呼氏は語った。また当時プロットを書く上で意識していたことが「ゲームのPV」だったという。「映像上でキャラクターが登場したり台詞が展開されるじゃないですか。それと一緒で把握しやすい効果を狙った」と、登場キャラクターのキャッチコピーとなるような印象的なセリフを記載するように心がけていたその意図にも触れた。

あらためて当時のプロットを振り返った相沢沙呼氏は、「当時のプロットには無駄の多さも感じる」と振り返り、現在は細かくなりすぎないよう書き方も自然と変化しているという。プロットを作ると作らないとでは書きやすさに影響はあるのかと問われると、「自分用のプロットは今でも書く」と相沢沙呼氏。思考の整理や物語の流れの把握に用いるとして、「他人が見てもよくわからないものだと思う」と会場の笑いも誘っていた。

また、企画から執筆までの経緯について、円居挽氏から三木一馬氏に「ライトノベルの現場では企画が会議に通らないと書けないという話を聞いたことがある。我々とはやり方が違うのだろうか」といった疑問も投げかけられた。

古巣である当時の電撃文庫編集部の話として三木一馬氏は「企画会議のようなものはなく、担当編集がいいと思えば出せる時代だった」とのこと。「担当編集にわかるような企画書は出す必要があったとは思いますけど、複数人でチェックするようなものはありませんでした。究極的に言うと、口頭でもいいねとなれば、そのまま本を書いて、担当編集が新刊企画書を出して、決裁を通して刊行に向けて動くスキームがありました。また、僕が聞いた他のレーベルの話では企画会議のようなものが存在すると聞いたことがある」と同氏の疑問に答えていた。

●質疑応答では鋭い質問が飛ぶ「LINEノベルからの新人発掘はどう行われるのか」

イベントの最後には観覧者からの質疑応答にゲスト陣が回答した。「物語の起承転結や序破急における真ん中の部分はどんなことを考えながら書いているのか」という質問に相沢沙呼氏は持論を展開。「物語の真ん中は主人公をとことん突き落とすところ」として、自身としてはそこから這い上がる主人公を描く場合が多いと語った。円居挽氏は「ミステリーとして考えた場合」を前提に、結末までの伏線をどんな順番で提示したらいいか、その都度盛り上がるように伏線の提示順をいじっていると気付いたら終わっていると独自の考えを語った。三木一馬氏も「編集者としての立場からのアドバイス」として、「真ん中には本筋ではない枝葉を書いてほしい」とした。「アニメや漫画では削られてしまう、削らなくてはいけない部分を書けることが小説の魅力である」とも語った。

また、「LINEノベル」に対する鋭い質問も飛び出した。「発表されている豪華作家陣に対して、新人はどう食い込んでいけばいいのか、その発掘コストをどう考えるのか」との質問に答えたのは三木一馬氏。LINE文庫&LINE文庫エッジは毎月8~10作品を刊行する。つまりは毎月10名近い作家にチャンスがあるとして、その枠数は決して少なくないと語った。また、「LINEノベル」のサービス上においては、まずは読者からの人気を獲得することがわかりやすい指針になると説明。LINEノベル編集部としても新人が育っていかないとコンテンツが死んでいくという危機感は常に持っているとして、自分たちも積極的に面白い作品を探して行きたいと意気込みを語った。

第3回ではスペシャルゲストを招いて行われた本イベント。マジック好きな相沢沙呼氏がマジックを披露するコーナーもあり、会場は大きな盛り上がりをみせた。「LINEノベル」は2019年夏にアプリで提供予定となる。

[関連サイト]

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